一、焚火たきび(15)

「…………。」
文官の人はせつない顔をして焚火を見た。隊長はこれから火にくべる書類の山から一巻を引き抜いて開き、しばらく無言で文面に目を落とした後、しんみりと言った。
「これは前任者の趙隊長の書いていた日報です。」
えっ、前任者の日報、捨てちゃうの? 自分の業務の参考にしたりしねえのかよ。ナメた野郎だ。そして無造作に積んである山からどうして一発でその日報を見つけ出せたのか謎だ。超能力かよ。
「最期の四日分くらいご覧になってみませんか?」
「はあ。」
気のない様子で日報を受け取り目を通す。途中から眉をひそめる。
「……はあなるほど。これはお気の毒ですね。」
「この焚火は、仇討ちなんですよ。ここにある玉石混交ぎょくせきこんこうの文字の山が趙隊長の命を奪ったんです。また、焚書は私の示威行動でもあります。手始めに派手に書類を燃やしてやって、今後いちいち文書化する必要もないだろうと思うような書類を持ってくる人がいたら追い返すつもりです。」
「無責任に書く人も多いですからね。一応文書化しておいたほうが無難だとか、参考までに読みたかったら読んで下さいとか。」
「そんな態度は許さないんです。」
「まあお手柔らかに。」
とうさんはいつも意味あるものしか書かないじゃないですか。」
「いつもということはありませんよ。出す予定のない恋文の下書きとか。」
「えっ。」
隊長は目をまん丸にして口に手を当てながら訊ねた。
「そういう相手がいるんですか?」
董さんも口に手を当てて照れる。
「変なこと言っちゃった。」
「なるほど。思いのたけをのべた文を書いては削り、書いては捨て……。」
想像しただけで恥ずかしいかのようにニヤついてくねくねと身じろぎしながら董さんをつっつく。董さんはくすぐったそうに身をよじりながら話をそらす。
「それにしてもいい匂いですね。」
「召し上がります? すぐ焼きますよ。」
「遠慮なく。」
「えっ、まだ材料あったんですか?」
俺は思わず叫んだ。
「予備ね。」
「あきれた……。」
「だよなあ。みんなのことをちょっとでも知ってたら予備なんて用意しとかなかったよ。スゲエよなあ、みんなの叡智と信頼関係で見事課題を解決したもんね。並大抵のことじゃないぜ。」



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