一、焚火たきび(5)

 事務のお兄ちゃんは書類から目を上げて、こちらを向くとニコッと笑った。そして書類を置いてつかつかとこっちへ歩いて来ると、
韓英かんえいです。あざな異度いど。よろしくお願いします。」
と丁寧語で挨拶してくれた。……韓英だと? 新しい隊長の? ぜったいウソだろう。事務のお兄ちゃんだろ? 韓英がそんな普通の人間っぽい見てくれをしてるわけないじゃないか。
「まあお一つどうぞ。」
蓋のついた小さい壺を開けて、何やら黄色い小さいまあるいカサカサした食べ物らしきものを勧めてくる。俺は唖然としたまま為すがままに一つ壺から取り出す。
「はあ。いただきます。」
わけがわからないまま口に入れる。――甘い。旨い。
「甘いもん好き?」
「いえ。たまに食べるとおいしいですが、やっぱり一番好きなのは肉です。」
甘いものをすすめられているのに肉が好きだと言ってしまった。
「肉なあ。旨いよなあ。こんなでっかい豚バラの塊り肉に塩をガンガン振って串に刺してジューッ。」
右手に蓋、左手に壺を持ったまま身ぶり手ぶりつきで楽しげに話す。
「所属はどこ?」
「えっと、」
「上官の名前。」
孫伍長そんごちょう王什長おうじっちょう、陳屯長、韓隊長、魏鎮北ぎちんほく、劉……」
「劉皇帝? ギャハハハ、ウケる。」
おっと、見かけによらず下品な笑い方だ。
「ふつう皇帝には姓はつけねえな。でもそんなんだったら面白えな。劉皇帝、曹皇帝、なんて呼び分けができたら意外に便利かも。いやでもやっぱありえねえな。什の中で一番仲よしなのは誰?」
「李謙、字を叔遜っていう奴です。」
「ふうん、分かった。ありがとう。ところで早速仕事頼んでいいのかな?」
「はい。何でもお言いつけ下さい。」
「何でもだぁ? 気軽にそんなこと言っちまっていいのか? 俺さじ加減が分からねえからよ、人使い荒すぎると思ったらちゃんと申し立てろよ。」
「はい。」
「じゃ早速だけどよ、俺いまここの書類を整理してるとこなんだけど、俺が片っ端から書類を開くんで、季寧はそれを巻きなおしてくれる?」
「はい。」
「助かるよ。開くより巻く方が圧倒的に手間かかるもんなあ。」
手早くお菓子の壺を片付け、ウキウキと巻物を開き始める。バッ、バッ、と、開いては置き、開いては積み、目にも留らぬ素早さで片っ端から巻物を平らにしてかかる。完全に単なる筋肉運動だ。内容なんて絶対見てないだろ。



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