一、焚火たきび(8)

 朝礼で、陳屯長が最初に少ししゃべり、隊長のことを紹介して、次に隊長が着任のあいさつをした。陳屯長は先任屯長で部隊副長なんだ。ちなみに、俺は陳屯長の屯に所属している。さて、隊長のあいさつだが……
「只今ご紹介頂きました韓英です。」
なんだこの第一声。どっかの役所から出向して来た人か、催し物の来賓かなんかのあいさつのようじゃないか。
「よろしくお願いします。」
ニコッと笑う。えらい簡単だな。しゃべりが下手なぶんは笑顔で補おうという魂胆か。
「この部隊は隊長不在が一カ月近くも続いて、みんな心細い思いをしてたと思うけど、俺も心細いんで、いっしょにがんばろう。」
なんて頼りないあいさつだ。最悪だ。
「でよお、さっき隊長室を覗いたら、なんか文字の書いてある燃えやすそうな物が大量にあったんで、夕方になったらそいつを派手に燃やして焚火して遊ぼうぜ。趙隊長のお弔いと俺の歓迎会を兼ねて。ついでになんかおやつでも焼いてやろ。いろいろ兼ねすぎかな? まあ趙さんそのくらいで怒んねえだろ。」
一人で楽しげにひゃっひゃっひゃっと高笑いをしたあと、
「じゃ、今日も一日はりきっていきましょう。朝礼終わり。」
と言うなりさっさと演台を下りて、陳屯長に何やら指示を出すとスタスタと部屋に戻って行った。なんか、話の緩急の付け方が独特すぎて、奇妙な脱力感にみまわれる。脱力しているくせに変に動悸が打っている。不思議な感覚だ。

 陳屯長の指示下で体操をしたり走ったり、いつもと変わらない内容の訓練をこなす。いつもと同じなのだが、なんだか気分がウキウキする。俺達は趙隊長が健在だった頃から毎日変わらず過ごしてきたつもりだったが、やはりこの半月余りの間は喪中というか、気もそぞろだったのだろう。人品はさておき、隊長がいてくれるというのはいいことだ。おまけに今度の隊長は若い。趙隊長は四十八歳でお父さんという感じだったが、韓隊長はお兄ちゃんだ。若くて活きのいい奴が来てくれてよかった。って、年下の俺が言うのも変だが。
 午後になったが、ほんとうに気分がいい。疲れを知らない。なにもかもが輝いて見える。あんな最悪な野郎が来たことがどうしてそんなに嬉しいのかと自らいぶかる。趙隊長が亡くなって以来、そんなに寂しかったのだろうか。趙隊長とまともに言葉を交わしたことなんかほとんどなかったのに、不思議なものだ。とにかく、今日はうちの部隊が久々に生き返った気がする。
 日差しが橙色に輝き始めた頃、韓隊長がえっちらおっちらと営庭に丸太を運び込んできた。焚火の土台らしきものを組み、戻って行く。と、次はこれから焼却するとおぼしき書類を運んで来て、俺のことを呼んだ。
「俺これから焼却処分する書類をどんどん運んできてここに置くんで、季寧は書類が紛失しないように見張っといてくれる?」
「はい。かしこまりました。」
俺のお利口さんな返事を聞いてニコッと笑うや否や、くるりと振り返って部屋のほうへ歩いて行こうとする。



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