十、陳倉城(10)

 陳倉城まで三十里ほどに迫った。どうやら城のほうから野戦をしかけてくる気はないらしい。城の周りにみっちり防備がめぐらされているのが見える。柵やら堀やら逆茂木さかもぎやら。それを撤去しに行ったらきっと上からざんざか矢を射かけてくる気だろう。想像しただけで面倒くさそうだ。当方の代表が一騎、城下に迫って城壁の上の敵と何やら会話している。どうせ「降伏しろ」って互いに言いあって、交戦の意思を確認しあうだけの儀式だろう。
 やりとりが終わり、さっそく城攻めにとりかかる。号令一下、えっちらおっちらと歩いて行き、一番手前の逆茂木を撤去しにかかる。地味だ。城からは人っ子ひとり出てこない。この逆茂木さかもぎ、なんのためにあるんだよ。ただ面倒くせえだけじゃねえか。ふつうは、こういう防御設備の撤去に手間取っている間に防御側から騎兵や矢であれこれ嫌がらせをしてきて攻め手の側に死傷者が出る、っていうのが一般的な絵だ。人っ子ひとりいない防御設備を地味にせっせと取り外しているなんて、単なる土木作業じゃないか。
「なんでなんもしかけてこないんですかね。この城、人手不足なんでしょうか。」
「さあな。」
「矢ぐらい射かけてきてもよさそうなのに。」
「この距離じゃ大した威力ねえよ。矢を温存するのが正解。」
「地味だなあ。」
「今日中にここ終わらせようぜ。明日あっちのにとりかかったら、ちびっと矢ぐらい飛んでくるかもよ。ちょっと練習しとく? えっとね、伝令。」
ふつうにいつも通りしゃべれば全員に声が聞こえると思うが、何故かご丁寧に伝令を出して連絡する隊長。と思ったら、伝令が完了した時点で結局大声でしゃべる。
「じゃ盾の練習するぞ。城から矢を射かけてきたって想定ね。はい、盾構え。」
背中に盾を背負いながら作業していたが、構えの指示で盾を取り外し斜め上に構える。その状態のまま逆茂木の撤去作業を続行する。
「うわ。」
言いながらよっこらせと逆茂木を乗り越えて、作業をすすめる俺達と陳倉城との間に立ち、小石をいくつか拾うとおもむろに俺達に投げつけ始める。
「なにすんスか。」
「痛てっ。」
「ひでえ。」
非難の声には構いもせず、せっせと小石を拾っては投げ続ける。
「下手なんだよ。ほら死傷者続出。参ったなあ。誰か名人いねえのか。おっ、名人発見。潘仲京はんちゅうけい。」
「はい。」
「ちょっと自分の屯の皆さんにコツを教えてあげて下さい、はん先生。」
「かしこまりました。」
はん師範しはんはさっそく、どういう格好の時はどう構える、というコツを屯の連中に伝授し始める。隊長はそれぞれの屯から一名ずつ名人を見つけ出して師範に指名し、小石を片手に指導の様子を見てまわる。師範が指導をする傍らで、
「今の聞いてたかよ。」
とか言いながら、指導を受けている隊員に時々小石をぶつけている。こんなことをやりつつも、俺達は逆茂木の撤去の手を休めない。というより、撤去作業をやりながら防御もするという練習だ。



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