十、陳倉城(11)

 この練習を始めて半時ほど経った頃、将軍の伝令が隊長のもとにやって来た。かしこまって伝令を迎える隊長。伝令は笑いながら用件を述べた。
「どうして盾を構えながら作業をしているのか聞いて来いと言われました。」
「隊員が矢を防ぎながらの作業をどれほどできるかと思って先ほどやらせてみたら、あまりにも下手クソ過ぎたんで、いま泥縄式に練習しているわけです。」
伝令はぶふっと失笑した。
「いや、失礼しました。いまのお言葉をそのまま将軍にお伝えしてもかまいませんか?」
隊長はにっこりと笑う。
「はい、結構です。アイツしょーもねーなあ、と将軍に思って頂きましょう。」
「そう思われて何か得することがあるんですか?」
「しょーもねーと思われて放っとかれたほうが、のびのびと働けそうですよ。」
「じゃあそのこともお伝えしておきます。」
「え。はあ。分かりました。結構です。こういう本音が人づてに伝わるっていうのもいいかもしれませんね。なかなか面と向かって『おれ期待されたら委縮しちゃう!』とは言いづらいけど。」
「委縮しちゃうんですか?」
「将軍になんか言われて委縮しない奴なんかいるんですか?」
隊長と可笑しそうに笑い合ってから、伝令は帰っていった。
 夕方まで続ける。しばらく小石を投げずに片手にコロコロさせながら手持無沙汰に歩いていた隊長が、おもむろにいくつか小石を投げ付けると、立て続けにコンコンといい音をたてて盾が小石を跳ね返した。こういう時に隊長がどんな顔でどんなことを言うか、俺達はもう知っているんだ。お褒めの言葉を待つ。案の定、にっこりと笑って
「みんな上手になったな。」
と言った。分かってはいても、褒められればちょっと嬉しい。
「さて、盾を納めてガッツリ逆茂木抜いちまおう。」
両手を使ってせっせと作業を進める。なんとか日没前に一段目の逆茂木を全て撤去しおえ、その日の作業は終了となった。城攻めとか戦争とかいうより、作業だな。土木作業。



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