十、陳倉城(12)

 いい月が出ている。今夜はまあまあのご馳走だ。干し肉の入った煮物と粟粥。干し肉自体は大して旨くもないが、いいダシが出るんだ。
「旨いね。」
嬉しそうに食べている。前々から気になっていたのだが、なぜヤツは自分の部屋なり天幕なりで食事をせずに兵卒みたいにみんなに混じって食うのだろうか。ウゼえんだけど。飯の時間くらいゆっくりさせろ。べつに毎日決まった奴を襲撃するわけではなく気ままにぶらりと混じってくるので、食事時に隊長が間近を歩いていたら、大抵の奴は心の中で「こっちに来ませんように」と祈っていると思う。
 今日襲撃を受けた連中のうち、しょう什長は隊長が接近しても迷惑そうな顔をしない希少生物だ。隊長と年も近い。ふつうに隊長に話しかけている。
「陳倉城にはよほど人が少ないんでしょうね。」
「なんでそう思う?」
「我々が逆茂木を完全に撤去するのをただ見ているだけでした。」
「そうやって油断させといて案外いっぱいいたらビックリだな。夜俺らがナメて熟睡してる間に夜襲とかあったらどうする?」
「どうするって、ふつうに号令通りに動くだけですよ。隊長、なんか指示出してくれるんでしょう?」
「はいもちろんです。それが私の仕事です。夜はガッツリ熟睡する気満々だけどな。」
横にいた李叔威りしゅくいが発言する。
「熟睡するんですか? 警戒しなくていいんですか?」
こいつはまだ十代だ。
「警戒なんか見張りの奴がやってりゃいいじゃん。見張りじゃない奴はガッツリ寝とこうぜ。俺寝るの大好き。ああ今日も楽しかったなあ、明日もいい日になりますように、って思いながら就寝するわけ。」
「そんなに毎日楽しいんですかあ?」
「楽しいよ。今日みたいに人に思いっきり小石投げつけたりさ。ケッケッケ。叔威はどう? 最近なんか楽しいことあった?」
「べつに普通です。」
「ふうん。普通っていうのは結構なことだな。どんなんが普通なの?」
「えーっと……。」
「今日も張伍長にぶん殴られずに過ごせてよかったな、とか?」
「殴ったりしませんよ。」
張伍長がふくれる。
「じゃああれか、張伍長のめしにこっそりフケを振りかけといたけど今日も気付かず食いやがった、シメシメ、とか?」
「えー、汚ったねえ! そんなことしないっすよ!」
「ギャハハハ、マジか。お利口さんだな。」
「隊長、自分になんか恨みでもあるんですか?」
「いやいや。今どきの奴はやんねえのかなあ、そういうの。昔はあったよね。」
蕭什長が無言で苦笑いする。
「悪しき伝統は断ち切られたか。よかったなあ。」
優しげに目を細めながら若い奴らを見ている。と、思っていたらゲラゲラと笑い始めた。
「ギャハハハ、今どきの奴らはホントお育ちがいいんだな。呆れるぜ。ギャハハハハ。」
俺らのほうがあんたに呆れてるんだぜ。



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