十、陳倉城(3)

 俺達も意気軒昂だ。隊長の調練は比較的変化に富んでいて、よその連中と比べればワクワク過ごしていると思うが、やはり毎日訓練ばかりに明け暮れていると倦むのだ。生命の危険を伴うのはもちろん怖いはずだが、死んだら人生終わりなんていうことはあまり実感がわかない、というか、人生とか、生きてるとかいうことも、単調な軍隊生活を送っている我々にはあまりピンとこない。退屈ということのほうがよほど現実的な恐怖だ。だから実戦だと言われれば馬鹿丸出しで興奮する。他にやることが何もない絶望的な青春なわけだ。

 戦装束の仕度を手伝う、というのは、絵面としていかにも勤務兵らしい作業だ。隊長は兵隊根性が抜けないうえに器用で素早いから放っとけば自分でとっとと完成させてしまいそうだが、そうはさせじと俺はかいがいしく手伝う。下々の職掌を侵してはいけないという気遣いから、隊長もおとなしくなすがままになっている。内心きっと自分でやったほうが早いぜと思っているに違いない。
 今日は出陣式があるので盛装だ。羽根を挿したりほろを付けたり、せいぜい見栄えよく飾りつける。面白い。思う存分こだわって俺の趣味で仕上げたら、なんとまあ、見違えるようだ。思わず嘆息する。
「ちゃんと着こむと映えますねぇ。馬子まごにも衣装だ。」
「それ褒めてんのかけなしてんのかどっちだ。」
「両方ですね。」
見た目だけでも褒められたのが照れくさかったのか、破顔しながら小突いてきたが、その拳が正確に急所をとらえているところが空恐ろしかった。十か月前、街亭がいていの戦いの折に参軍さんぐんから綱紀維持の特命を受けていた韓什長かんじっちょうは、暴動寸前まで騒ぎたてていた兵隊をこの壇中だんちゅう打ちでたっぷり一丈もぶっとばし、彼の呼吸を停止せしめ、暴動を見事未然に防いだという噂だった。ちなみにその兵隊は心停止こそ免れたものの、横隔膜が復活するまでのたうちまわって苦しんだという。
 みんなも俺の作品に満足したようだ。別人のように男前っぽく仕上がった隊長が現れると、おお、とどよめく。
「ギャハハハ、チャラチャラしたお飾りに弱えでやんの。ダッセー!」
みんなを指さしてゲラゲラと笑う隊長。口を開いたらガッカリだ。どうかなるべく黙ってて下さい。



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