十、陳倉城(6)

 一日に五、六十里の行軍は、身軽なうちの部隊にとっては楽なものだ。歌をうたったり雑談をしたりしながら気軽に歩く。強弩きょうど輜重しちょう部隊にとってはやや強行な日程ではあるが、まあ彼らも頑張ってついて来てくれるんだろう。輜重部隊ってけっこうお年寄りが多いらしいが、重い荷物を押したり引いたりしながら坂道を進むなんて、ご苦労なことだ。殺し合いの前面に立たなくていいからといって楽だとは限らない。ジイさんたちが頑張って下さってるおかげで俺らもメシが食えます。おじいちゃん、いつもありがとう。って年寄り扱いして小馬鹿にしたら、たぶんぶっとばされる。歴戦の猛者ばかりだ。
 俺は四日目くらいでもう退屈してしまった。あまりにも退屈なので、隊長でもからかってヒマつぶししようと思って絡んでみた。
「隊長~、いつ落馬して崖に落っこちてくれるんですかあ?」
「さあ。そればっかりはお馬ちゃんのご機嫌次第じゃん?」
「じゃあなんか怒らせるようなことしてさっさと落っこっちゃって下さいよ。」
「やりたきゃお前やれよ。きっと誰も真相に気づかないぜ。事故ってことで処理される。」
「でもそれ殺人ですよね。」
「もし立件されても、馬と遊んであげようと思っただけです、いつも人懐こいこの馬が突然暴れ出すとは予測不可能でした、って言っときゃいいんじゃねえ?」
「ちょうどいい感じの断崖だんがいですよね。ここから落ちたら万に一つも助からないでしょうねえ。」
「そ。好機到来だ。死人に口無しだぞ。さあ、今だ。殺れ。」
「それマジで言ってるんですか?」
「今の殺人教唆きょうさになんのかな。でも被疑者死亡か。」
嘱託しょくたく殺人じゃないんですか?」
「俺べつに殺してくれって頼んでないぜ。」
「今だ、殺れ、って命令してたじゃないですか。」
「ああなるほど。命令ねえ……。」
真面目に考え込んでいる。なんとくだらない話題だろう。こんな会話に時間を費やすとは、よほど退屈してるんだな。
「でも俺が『今だ、殺れ』って言うのは、べつにむざむざ殺されるつもりで言ってるんじゃないんだ。なんか仕掛けてきやがったら返り討ちにしてやろうと手ぐすね引いて待ってるわけ。」
「やっぱり。」
「もし万一転落する時はなんとか上手くお前を巻き添えにしてやろうと狙ってるんだ。気をつけな。」
「ほんと意地悪ですね。」



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