十二、苦肉の計(11)

「なにごとですか?」
「最後俺が超能力で防いだ一矢な、矢じりに毒が塗ってあったぜ。随分念の入ったことしてくれるよなあ。危ねえ危ねえ。名前が彫ってあるな。河北かほく劉信季明りゅうしんきめい? どんな奴だろ。覚えてやがれってんだ。」
「あれほんとに超能力だったんですか?」
「いや、あれは絶対来ると思って待ってた。後ろから仕留めようと思ったらひじ膝裏ひざうらじゃん? しかも腕自慢の奴がいい精度で射ってくると思ってたから、音さえ聞き逃さなければ防ぐのは簡単だと思ってた。どうよ、目論見通りだったろ?」
「……それやっぱり一種の超能力なんじゃないですか?」
「そう思いたきゃそう思え。でもそんなタカをくくって案外劉信りゅうしんが手元狂わせてうっかり顔とかに当たっちまったらマズいとこだったな。やつに『てめえがしっかり狙わねえから当たっちまった』って責めるわけにもいかねえし。仮に野郎が『それはすまんこってした』って謝ってくれたとしても、毒が回っちまったら後の祭りだ。やれやれ、毒かよ。ナメた真似しやがって。そんなに宋隊長のことを愛していたのかねえ。」
「あの飛刀も狙い通りだったんですか?」
「うーん、一投目であたりをつけときゃ二投目は当たるかもしんねえなとは思ったけど、ほんとに当たってビックリな感じ。俺どうやら飛刀の才能あるらしいっていうのは自分で知ってたんだけどな。大して練習もせず狙いもしないのに何故だかよく当たるよ。練習しねえのに当たるっていうのは天才としか言いようがないよな。殺しの天才。俺あと四百何十年か早く生まれていたら始皇帝暗殺できそうじゃねえ?」
「あの距離からしとめられるならできますね。」
「始皇帝好きだから殺したくないけどさ。」
「漢の臣として、始皇帝が好きだなんて言っちゃっていいんですか?」
「理屈抜きに好きなんだよ。ちょっと悪者で、強くて賢くて巨大建築をドカドカ造っちゃう男なんて、絶対面白いと思わねえ?」
「始皇帝が好きなんだ。だから最初着任して早々焚書坑儒ふんしょこうじゅを行っていたんですね。」
「焚書はしても坑儒はしてないぜ。俺儒者じゅしゃは好きだぞ。うまく寝付けない時に儒者の話を聞くとスコンと気持ちよく眠れる。そうだ、矢を束ねるひも持ってきてくれよ。資材んとこにあるから。」
「はい。そういえばこれ隊長みずからやらなくてもいいんじゃないですか?」
「俺やるよ。単純作業に没頭したい気分。」
せっせと抜いている。今更ながら、変わった人だなと思う。冒険野郎ではあるが無謀ではない。馬鹿のくせに小芝居もうつ。勇敢なくせに小心者だ。自分で自分のことを支離滅裂な人だと言っていたことがあるが、それは正しい。



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