十二、苦肉の計(2)

「結婚でもすればいいじゃないですか。」
「ギャハハハハ、ふざけんな。家なんか建てたら結婚する金なんか残らねえよ。空っぽのお屋敷にボロをまとった新妻がその日食べるあわを買うためにせっせと内職? 可哀相すぎるぜ。ギャハハハハ、超ウケる。笑い死に寸前だ。もう二度とその話はしないでくれ。次に家建てる話題を聞いた日が俺の命日だ。」
「なるほど。隊長を殺そうと思ったら、爆笑させればいいんですね。」
「そ。俺様を殺すのに刃物はいらねえ。ちょっとしたお言葉があれば簡単に死ぬからな。笑わせるよりも確実なのは、十代半ばのカワイ娘ちゃんを目の前に連れて来て『キモいウザい死ね』って言わせることだ。きっと即死するだろう。」
「それはいい情報を聞きました。」
「あっちの敵さんに教えてやれば? そしたら近日中にピチピチのカワイ娘ちゃんを連れて来てくれるかもしんねえぜ。」
「なるほど。楽しそうですな。」
なに喜んでんだ、スケベオヤジめ。

 敵はわざわざ援軍まで呼んでおきながら、なぜ何もしかけて来ず、遠くから矢を放ってくるだけなのだろうか。初日に意外に大きな損害を受けたから尻込みしているのだろうか。それとも、なんにもして来ないと油断させておいてこちらがたるんだ隙を狙って一気に叩くつもりだろうか。ちくちくと矢で嫌がらせをしておいて、我々の士気を殺ぐ。糧食も底をつき夜も安心して眠れず疲労困憊したところを粉砕する。ふむ、なるほど。
 俺達はここのところ連日の馬肉で体力を持て余している。今日も隊長は呑気に肉を炙りながら
「やっぱ遠征は冬に限るなあ。」
と嬉しげにしている。
「夏は暑さとの戦いになりますもんね。」
「うん。暑いと馬肉が熟成しないうちに痛んじまうからなあ。」
どういうことなんだ、今の発言? 遠征といえば馬肉を調達して食うことだと思っているんだろうか。漢人の発言とも思えない。まるでどこか化外けがいの地の狩猟民族のようだ。
 批判はさておき、熟成した馬肉は旨い。最初の頃よりも柔らかくなったし、味も明らかに美味しくなっている。これを隊長が狩猟民族の知恵でこんがりと香りよく焼きあげ豪快に切り分ける。それを取り囲んで眺めるのが食事の度の儀式だ。隊長はお祭りを執り行う祭司といったところだ。



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