十二、苦肉の計(3)

 肉を焼くたきぎの中にも矢が飛びこんでくる。退屈まぎれに提案する奴がいた。
「これまでに飛んで来た矢を一気に火に投入して盛大に焚火しましょうよ。」
「う~ん、それもいいけどなあ。やっぱ矢は矢として使いてえな。」
「矢を使う気なんかあったんですか? てっきり嫌いなのかと思ってました。」
「べつに嫌いじゃないぜ。飛び道具好きだもん。」
「最初ここで敵の攻勢を受けた時は、矢を使いませんでしたよね。」
「初日はね、ちょっとやめとこうと思った。どっかに立てもってる時に敵が矢をものともせずに侵入してきたら、それだけでなんか半分負けた気になんじゃん? そんなハンパなことするよりは蟻地獄の主になりきって中に引き込んでからやつけるつもりでどっしり構えてるほうが気圧けおされなくていいんだよ。でも次に奴らがかかってきたら使おうぜ。こないだ俺らが一本も放たなかったから、きっと弓を持ってねえんだろうと思って油断していそうじゃん? その不意をつく。ギリギリまで引き寄せて滅多射ちにしてやろう。倒れた馬に後続の馬がぶつかって混乱したところを皆殺し。」
意地悪そうに笑う。魔鬼あくまだ。
 みんなで火を囲んで楽しくお食事をする。その間にも断続的にイヤミな矢が飛んでくる。そして、食事を脅かそうと敵の騎兵が三々五々ドカドカと近寄っては帰って行き、安心感を与えない。それでも旨いものは旨いんだ。隊長も嬉しげにお肉を食べようとしている。と、あろうことか、今まさに口に運ぼうとしているその箸に見事敵の矢が命中し、おいしそうなお肉が無残にも地上に落下した。すると、これまで始終呑気に構えていた隊長が俄かに顔色を変え、低い声で呟いた。
「俺のメシの邪魔をして、ただで済むと思うなよ。」

 食事が終わってのんびりしている時に、と言っても矢がちらほら飛んでくるのを避けながらだが、隊長が無表情に馬鹿なことを言いだした。
「俺ちょっと退屈したから敵さんをからかいに行ってくるよ。誰か一緒に行きたいやつ募集、先着一名様。」
「はいっ!」
と俺が言うのと、
「とんでもない!」
と陳屯長が叫ぶのと、ほぼ同時だったと思う。
「へえ、季寧行きたいの? 意外。」
考えるともなく急いで返事をしてしまった。さっき肉を落されて隊長が怒っていたから不穏な気配を察していたんだ。もしヤツが暴れ出したら取り押さえなければと思っていたのだが、取り押さえるというより自分も巻き込まれるハメに。間抜けすぎる。
「いや行きたくはないですけど誰か一人連れてくんだったら自分連れてって下さいよ。」
「行きたくないんだったら連れてかないよ。」
「前言撤回、行きたいです。」
「嘘つきだなあ。まあいいや。じゃ一緒に行こうぜ。」



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