十二、苦肉の計(4)

「いやいやいや、とんでもないですよ。なに馬鹿なこと言ってんですか。」
陳屯長が割って入る。うん、確かに馬鹿だね。正解。
「俺が馬鹿なこと言うのなんかいつものことじゃん。」
「いや、だって、からかいに行くって、おかしいでしょう。あなた隊長ですよ。三百人の人命を預かってるんですよ? 軽々しく遊びに行っちゃだめじゃないですか。」
「でも重々しく遊ばずにじっとしてたら俺発狂しちゃう。俺が外に気ままに遊びに行って帰らぬ人になるのと、この場に籠もったまんま発狂するのとでは、後者のほうが被害が大きいと思うけどな。俺が帰らぬ人になっても陳さんがしっかりこの場を取り仕切ってくれるでしょ?」
「責任感ってものがないんですか?」
「そういう重圧に弱い。俺精神面弱いんだ。自由気ままにやらせてもらえればそれなりに結果は出すつもりだけどな。他人の期待通りに動くのなんかごめんだぜ。文句は言わせねえ。」
「ひどいな。隊長失格だ。」
「ひゃっひゃっひゃっ、お生憎様。めでたく将軍と再会した暁には、せいぜい俺の悪口を言っといてくれ。じゃとにかく、行きますんで。どうやって留守番する?」
「しかたないですな。では隊長が万が一そそっかしくも敵の餌食となり敵がかさにかかって攻め寄せた場合に備えて、せいぜい防備を固めておきますよ。」
「じゃあそちらの準備が整ったところで出発します。」
「ええっと、矢を使うとおっしゃってましたな。ということは、盾を押さえる係の後ろに弓、その後ろに刀ですか。」
「さて。俺ならもっと違うやり方するけどな。まあご自由に。」
陳屯長はあからさまに舌打ちをした。ごもっとも。
 みんな面白そうにウキウキと迎撃の態勢につく。隊長の軽挙妄動が可笑しくてしかたないらしい。俺は悲しくてしかたがない。隊長が馬鹿なのは勝手だが、なんで俺まで馬鹿の巻き添えになっているんだ。こんな馬鹿なことは、馬鹿の王仲純にでも付き合わせればいいじゃないか。どうして立候補しちまったんだ、俺。馬鹿すぎる。俺の動揺をよそに、隊長が旗手の劉子倫りゅうしりんに話しかける。
「この旗って、いつも俺がいるとこにないといけないじゃん?」
「そうですね。」
「じゃあ俺これ借りて持ってっていいかな?」
「はい。二人だけで行かれるんだったらそれしかないです。」
「だね。」
ニコッと笑う。
「で、俺がこれを持ってくんだけど、自分で持ってっと手がふさがって俺なんもできなくなっちゃうから、代わりに季寧の手を借りて持ってもらうけど、りんの職掌を取り上げてこいつに旗を手渡すっていうわけじゃないからな。あくまでも借りていくのは俺で、この人は俺の手の代わり。そういう理解で大丈夫かな?」
「はい。お気遣いなく。」
「じゃあお借りします。必ずお返ししますんで。」
馬鹿のくせに細かいことを気にする奴だ。まあ、異常に細かい性格だとはかねがね感じていたが。



《広告》
ページ公開日: 最終更新日: