十二、苦肉の計(9)

 無事に陣地に着く。耳をろうする歓呼の声。みんな隊長の魔法のとうと超能力の防御に大興奮なのだろう。感極まって半泣き状態で駆け寄って来る。
「隊長ー!」
「あ、動いた。ぶちのめす。」
言下に最寄りの一名を打ち倒す。そういえば、持ち場を離れたらぶちのめすって言ってたっけ。
「もうぶちのめして下さいよ! 思う存分!」
「ふざけんな。」
人中じんちゅう
「隊長スゲー!」
「てめえら馬鹿かよ。」
廉泉れんせん
「超能力者だって本当ですか?」
「それ面白えな。そういうことにしとけよ。」
水月すいげつ。正確に急所を打ち続ける。
「いや待て、不死身で僵屍キョンシーでしかも超能力って、そこまで揃うとなんか嘘っぽいな。どこ削る?」
「神だ! 神業かみわざだ!」
「増えてんじゃねえかよ。馬鹿か。」
しゃべりなが次々とぶちのめす。
「ああもう手が痛え。いま動いたやつ後で申告しろ。一日三名ずつキッチリぶちのめす。自分達で順番きめて出頭しろよ。それよりご機嫌でいっちょ軍歌でも歌っとけ。進無当しんむとう。」
  王師伐賊 進無当……
  (おうぞくつ 進みて当たる無し……)
意気衝天だ。俺達のごきげんな歌声が敵にもはっきり聞こえているだろう。
「俺ら絶対うぜえって思われてるよな~。」
満足げに歌に聞き入っている隊長に、ただ一人正気の男が話しかける。
「あの、隊長、ちょっとちょっと。」
と言いながら人の輪の外に引っ張り出す陳屯長。
「あのですね、今の、うまくいったからいいようなものの、なんであんな危ないことをしたんですか。」
「危ないことやったほうがみんな喜ぶかな~と思って。」
「…………!」
ブチ切れそうになりながら絶句する陳屯長を、笑いながら押しとどめる。
「ここらで派手な見世物でもないとガキどもの集中力がもたねえじゃん? べつに好きこのんでふざけて遊んだわけじゃないから怒んないで下さい。」
「……見世物ですか。集中力をもたせるために。私はまたてっきり好きこのんでふざけて遊んでるのかと思ってました。」
「そこまで酔狂じゃないよ。魏のやつらかかってこねえでイヤミに矢を放ってくるばっかで、みんなクソもおちおちできねえじゃん? 放っとけば今日あたりが我慢の限界かと思って一足先に暴れてやった。ちょっとはスカっとしたろ? 敵は意気阻喪したのか、それとも憎しみ倍増で闘志を燃やしたのか知らないけど。」
「明らかに意気阻喪してますね。」
「なんかヒイてる感じだな。『ちょっとあんたその冗談面白くなーい』って。」
「冗談にしては度を越してますよ。会話しているだけで飛刀で殺されるんですから。」
「冗談じゃないもんな。戦争だもん。殺し合い。」
ちょっと後味の悪そうな顔をした。



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