十三、鉦(かね)の音(6)

 数日ぶりに包囲が解ける。みんなの顔を見まわす。何日間も馬肉ばっかり食ってきたので、栄養過多なのか、顔がツヤツヤ、というかテラテラしている。人殺し終了直後なので、目つきもギラギラして一様にたかぶった様子だ。これは一体なんの集団なのだろうか。熱狂的に凱歌をうたい続ける。
 隊長は何故かしょんぼりした様子で片付けを命じる。盾を回収し、お泊りの道具をしまう。敵の遺体と負傷者は例によって一か所に集めておく。うちの部曲の八名の遺体は連れて帰る。冬なので遺体の状態はよい。状態はよいというのも変な言い方だ。よいもんかよ。死んだら人生おしまいだ。
 包囲を解いてくれたのは鉄騎隊だった。どっかが助けに来てくれるならたぶん鉄騎だろうと思っていたが、予想通りだ。李隊長が
「アハハハ。」
と笑いながら馬を馳せて来る。何が可笑しいんだ。馬鹿じゃねえか。ひらりと馬を飛び下り隊長に駆け寄って抱きつく。体格からして大人と子供のようだ。妙な絵だ。隊長は呆けたようになすがままになっている。
「よく無事だったねえ。後からげきも来るんだけどさあ、キミらチャンバラの真っ最中だったから彼らを待ってらんないと思って先に蹴散らしてやったよ。彼ら着いたら怒るかなあ。アハハハハ。」
隊長は寝起きか泥酔の人のように話の内容が理解できないような表情で目をしばたたいている。
「あれ、無言? 疲れた? 疲れたよねえ。何日がんばった? 六日? 偉い偉い。よくがんばったねえ。」
「へっへっへ。」
あれ、泣いてやんの。ほっとしすぎだろ。まあいいけどさ。隊員たちは気付かず延々と凱歌をうたっている。馬鹿だ。

 俺達はそのまま箕谷道きこくどうに入り漢中への帰路に就いた。撤収だ。陳倉口ちんそうこうの将軍の陣地もすでにたたまれていた。援軍がなかなか来なかったのは、やはり敵が補給路を断ちに来て手一杯だったためらしい。撤兵が決まり、やっと救助に手を回せるようになったのだ。呆れる。丞相じょうしょうが西へ転戦することを決めてから十日も経っていないじゃないか。どうなってるんだ。隊長の馬のカポカポいう足音を聞きながら、俺は思わずぶうたれた。
「侵攻している期間より、往復に費やす時間のほうが長いじゃないですか。なんで一月も経たずに撤兵なんですか?」
「兵糧が続かねえんだとよ。まさか俺らも食わずに頑張りますとは言えねえじゃん?」
「ああもう! だからやっぱり案の定だ。こんな山道通って運んでるんだから、短期決戦じゃないと絶対無理じゃないですか。なんでメシの目処もつかないのにじっくり腰すえて戦おうなんてするんですか。」
「気になるんだったら丞相に聞いてみれば? 名もない一兵卒の訴えでも面会さえできればちゃあんとウンウンっつって聞いてくれるよ。」
「え~、そんなの隊長が聞いて下さいよ。」



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