十七、初めての拉麺(1)

 定軍山から帰ると、隊長の几案つくえの上は書類で溢れ返っていた。そこに乗りきらず、横の床の上にも山積みにしてある。
「ギャハハハ、ウケる。」
ひとしきり大笑いしたあと、
「これ全部開かねえまんま焼いちまいてえなあ。」
と一言愚痴を言って、へらへらしながら几案の横にしゃがみ込んで一つ一つ書類を開き始めた。
「こんなに沢山あるんですから、きちんと座って読んだらいかがですか?」
「う~ん。なんか、ガッツリ事務仕事に打ち込むの、やなんだよ。こうやって窮屈な格好でほんの仮住まいみたいな態度でいやそうにちょびっとずつ書類を触るようにすると、はかどる。」
「変わってますね。まあどうでもいいですけど。」
「じゃ、焼却のほうに置いたやつ、巻いてって下さい。」
「かしこまりました。」
黙々と取り組むこと半時あまり、大多数の書類が焼却の場所に重ねられ、五分の一ほどが几案の上に開いたまんま積み重なっている。
「う~ん。」
相変わらず窮屈そうな姿勢のまま、几案の上を眺めて考え込む。と、くるりと躍るように立ち上がりながら
「遊びに行ってこよっと。」
と言って部屋を出て行こうとする。
「えっ、ちょっと!」
引き留めようとすると、隊長が部屋の出口で人とぶつかりそうになると同時に
「アハハハ、オレを抱きしめに来たの?」
という声が聞こえた。李隊長だ。
「いえ。いま珍しく文字を読もうと思ったらイヤんなっちゃったんでスカッと馬の散歩でもしようと思って出てきたところです。」
「えー、オレ今日はもうさんざんはしらせたから異度くんとこでお菓子食べて休憩しようと思って来たんだけど。」
「いま甘いものは果脯グオフ芝麻酥糖ジーマースータンくらいしかないんですよ。ここ数日出かけてたもんで。」
「出かけてたのは知ってるけどさ。オレ酸っぱいのとか堅いものとか好きじゃないんだけど。」
なつめや干し葡萄はどうですか?」
「干し葡萄って二種類あるじゃない? あの、皮がモサモサしてるの好きじゃないんだけど。」
「これ、どうですかね。」
「あっ、うんうんこれ! 美味しそう! このふにゃふにゃしてるほうのやつが好きなんだよ。」
「じゃどうぞ。お茶も召し上がります?」
「ウン。お薦めのやつ。干し葡萄に合いそうなやつにしてね。」
「かしこまりました。」



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