十七、初めての拉麺(10)

「けっこう捏ねてますけど、いつまでもまとまる気配ないですよ。」
「力が足んねえのかな。生地包んで足で踏んじゃう?」
「隊長がやって下さいよ。」
「ダメ。おまえ生地担当。」
不承不承、生地を包んで上にのっかって踏み踏みする。ちょっと生地がまとまってきた。ふうん。……面白え。
「このあいだ手擀麺ショウガンメンを作りに来た、隊長のもと部下の人、材料だけ聞いて帰って行きましたけど、きっと苦労してるでしょうね。やっぱ現場で見てもらいながらやんないと分かんないですよ。」
劉仲基りゅうちゅうきな。あいつ生地は上手く捏ねるだろうけど、細く伸ばすのは最初のうち上手くいかねえだろうな。当分の間、太っとい拉麺が奴らのおやつになるだろう。」
「やっぱあっちに帰りたいって思ってるんですか?」
「そんなこと考えたってしょうがねえよ。」
「什長から部曲督になるの、嬉しくなかったんですか? 驚異の大抜擢ですよね。俸禄もでるし、にしき戦袍せんぽう着て馬に乗るわけです。什長みたいに地べたを這いまわって馬に踏みつぶされることもないわけですよ?」
「人不足ここに極まれりだ。話が来たとき俺イヤだっつって泣いてごねたけど取り付く島なかったな。不承不承うべなったら丞相閣下おんみずからだめ押しで説教しに来たぜ。その時の丞相のぐさが笑っちまうよ。適材適所ということが難しい、なかなか君のようにぴったりな感じの人がいなくてね、って言って下さったまではいいけどよ、言うに事欠いて、どの人も高不成低不就帯に短したすきに長しでね、なんて言いやがった。お前はとうてい帯にできるような上等な代物しろものじゃねえがたすきあたりにはピッタリだって面と向かって言われたわけ。そりゃあもちろん帯に足りないのは真実だけど、本人に向かって言う言葉じゃねえよなあ。不器用な人だよ。」
気を悪くしているふうでもなく、可笑しそうに笑っている。
「隊長、丞相と親しいんですか?」
「犬猿の仲、腐れ縁。」
「派閥の手垢に染まってない下士官上がりの将校を将軍が好んで自分の手元に置いたっていう巷間こうかんでささやかれている説は間違いなんですか?」
「どこの巷間で誰がささやいてるんだ? 俺は丞相の手垢にベッタリまみれて窒息寸前だ。」



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