十七、初めての拉麺(5)

 小半時も退屈な話題で盛り上がった末、やっと李隊長がそろそろ帰ると言いだした。もう夕方だ。
「ねえ、干し葡萄も美味しかったんだけどさあ、こんどからはいつも欠かさずオレの好きなしっとりしたお菓子用意しとかないとダメだよ。ちょくちょく食べに来るんだからね。」
「はあ。分かりました。常に欠かさずとは請け合えませんけど九割以上の確率であるようにしときます。」
「アハハハ、分かった。じゃそれで勘弁しといてあげるよ。じゃあまたね。」
李隊長は満足げに帰って行った。韓隊長も満更でもない様子だ。実に不思議だ。上から目線で命令されて召使い同然に茶菓の用意をさせられているのに、なぜ嬉しそうに付き合っているのだろうか。もしや変態なのではなかろうか。オエ。
 実に不思議だ。変態なのは李隊長なのか韓隊長なのか。それとも、両者いずれも変態でお似合いの二人なのだろうか。不気味すぎる。隊長の意図を確認してみる。
「隊長、あの人、ちょっと気を付けたほうがよくないですか。」
「なんで?」
「だって、明らかに下心ありますよね。」
「え~、あれ冗談でいってんじゃねえの?」
「いやいや、だって目つきがおかしいですもん。危険です。」
「気を付けるってどうすりゃいいんだろうな。」
「そんなのこれまでに経験ないんですか?」
「ねえな。」
「鈍感なだけなんじゃないですか?」
「失礼だな。」
「絶対そうでしょう。これまでも気付かぬうちにあまたの人を傷つけてきたんじゃないですか?」
「殺傷した人数は数知れず。」
痴情ちじょうのもつれってのも怖いもんですよ。で、どうするんですか?」
「どうするって、ふつうにお友達付き合いしたいけどな。」
「一方に下心があるのに友情って成立すると思います?」
「さあ。」
「面倒なことになる前に距離とっといたほうがいいですよ。」
「でも俺あの人好きなんだよ。人として。」
「じゃあお友達やるのは結構ですけど、万が一の時におとなしく結ばれる覚悟あるんですか?」
「ねえな。」
「え~、危険。いつか惨事が起きなきゃいいですけど……。なるべく二人だけで会わないようにするとか、気を付けといて下さいよ。」
「で、みんなの前でイチャついて公認の仲になっちまったら悲劇だな。ギャハハハ。」
「笑いごとじゃないですよ。こっちは真面目に言ってるんです。」
「すみませんでした。忠告ありがとうございます。せいぜい気をつけます。」
「せいぜい、って言葉からして、緊張感が感じられないですよ。」
「さあて、やるかなあ。」
再び窮屈そうな格好で几案つくえの横にしゃがみ、いやそうに指で書類をつまみ上げる。
「俺これから晩飯前までチビっと書き物したりしてるんで、退屈だったら王什長んとこ行ってて。」
「はあい。」
気の抜けた返事をして迷うことなく王什長のところへ向かう。三十過ぎのわけのわからないオッサンと一緒にいるより年の近い奴らと遊んでるほうが楽しいに決まってる。



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