二、城壁にて(1)

 兵隊の朝は脱兎のごとしだ。起床の太鼓とともに跳ね起き、鼓声三通の間に身支度を済ませて外へ飛び出す。軍隊ではいつでもどこでも自在に眠れるという技能が非常に重要であるから、精鋭の俺達が起床の太鼓の鳴る前に目覚めてしまうことはありえない。時間一杯キッチリ眠るのだ。と、思っていたら、なぜだか先に目覚めている人物がいた。
「あ、おはようございます。」
「おはようございます。」
「早いですね。」
「年寄りは早起きなんだ。」
「若いじゃないですか。それ何ですか?」
「八宝粥を作ってる。無性に食いたくなってよ。」
「一人で食べるんですか?」
「なにのんびりしてるんだ。点呼は?」
そうだった。兵隊の朝は脱兎のごとしなのだ。隊長ののんびり感についつられてしまった。
 脱兎のごとく点呼を済ませ、健康観察、清掃、流れるように日課をこなしていく。定例事項を済ませて戻ると、粥は旨そうにプツプツと、まさに食べ頃な感じの音を立てていた。匂いにつられてバラバラと人が集まって来る。
「それ一人で食べるんですか?」
「どうしようかなぁ。みなさんどうぞご一緒に、って言いたいけど十二、三人分しかねえと思うんだ。」
王什長がすかさず提案する。
「十二、三人分だったら、どこかの什の奴と、隊長と張季寧でいいじゃないですか。」
「じゃどこの什の奴が食べる?」
「じゃあうち。」
「俺。」
「俺んとこ。」
手勢令むしジャンケンしようぜ。」
王什長は百足むかでを出して負けた。什長が負けても俺は食える。ありがとう、什長。
「決まりました。」
「嬉しいじゃん。俺が放っといても問題解決してくれるじゃん。頼もしいね。」
「このあいだ鍛えられました。」
「八宝粥って好み分かれると思うけど大丈夫?」
「食べたことないです。」
「隊長の作るものが不味いはずはないですよ。」
「えれえ信頼されてんな。」
「料理の腕だけは。」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。」
「え、いま料理以外を否定されたんですよ?」



ページ公開日: 最終更新日: