二、城壁にて(3)

「たった一かけの食い物でうっかり人生変わっちまうってことは、ありえねえ話じゃねえな。しっかしありゃあべつに俺の腕じゃないぜ。作り置きしてある材料をテキトーに包んで焼いただけでそんなに旨いはずねえじゃねえか。手に入れるまでに苦労したから旨かったんじゃねえの? 苦楽を共にした仲間と一緒に食うってのもよかったんだろ。」
「でも明らかに旨かったですよ。なんなんでしょうね。あの具材のゴロゴロ感がいいのかな。」
「細かく刻むのが面倒だっただけだ。」
「あれ用意するの、一日に三百里行軍したあと鉄鎧二枚着て五丈の城壁を登るより大変だったそうですね。」
「えっ、そんなことやったことあるんですか?」
「訓練でね。」
「いやそれ人間ワザじゃないでしょう。」
「そんなこと可能なんですか?」
「あれ? 君らやったことないの? じゃこんどやってみようぜ。楽しいぜ~、遠足。」
「遠足じゃないでしょ、強行軍でしょ。」
「三百里はいいけど鉄鎧二枚って。」
「そんなの着てたらふつう動けないですよね?」
「ふつうってのはどんなのがふつうなんだろうな。まあ急にやれって言われても難しいだろうから今回は一枚で勘弁してやるよ。そのかわり行軍中は鎧を巻かずにずっと着たまんまでやってみようぜ。」
「えっ、もうやること決定ですか?」
「死にますよ。」
「死ぬかあ? こんな秋の気持ちのいい陽気じゃそうそう死なねえよ。まあでもお互いの顔色をよく観察しながら気をつけてやるとしよう。みんながいっぺんに頭真っ白になっちまったら共倒れだけどな。」
「なんでそんなウキウキした表情で恐ろしい話をするんですか?」
「さっそく将軍の許可とってこよっと。」
「えっ、今?」

 月宮の夢から地獄の入口に引きずりおろされた俺達。しばらくして魔鬼あくまはウキウキとした足取りで戻って来た。
「将軍の許可とれたぞ。よっしゃ、今日は楽しい遠足だ~。」
「えっ、今日ですか? 今日の今日?」



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