二、城壁にて(4)

「そ。今夜は月も明るいしね。絶好の強行軍日和。屯長に召集かけてくれよ。」
殊勝にパシリを請け負って屯長たちを集める俺。頃刻きょうこくの後、不審顔の屯長達に魔鬼あくまはウキウキとあいさつをした。
「おはようございます。」
「おはようございます。」
「突然なんですけどね、今日これから強行軍と城攻めの訓練をします。具体的には、成固せいこを通り越してちらっと子午谷しごこくをひやかして、南鄭なんていに引き返して城外の訓練用の三丈の城壁に鍵縄を使って登る。行程およそ三百里、全員が城壁に登ることができた時点で終了、時間の設定はなし。これから太鼓を五通鳴らす間に全員甲冑帯刀で集合、持ち物は水筒の水のみ。よろしいか。」
「はい。」
「へっへっへ、まさかよろしくねえとも言えねえな。」
「ずいぶん急ですね。いつから計画されてたんですか?」
「さっき思いついて将軍に許可とってきた。」
「えっ、ずいぶん急ですね! よく許可がおりましたね。将軍はなんておっしゃってました?」
「苦笑してたぜ。そんなにせっかちで大丈夫かって。俺の人格疑われたかな。それともみんながついて来れんのかって心配したのかな? まあどっちでもいいけど。」
「どっちでもだめじゃないですか。」
「どっちでもいいんだって。俺の人格的な欠陥はみんなの努力で補うんだぜ。みんながついて来れんのかっていう心配なら、まさかついて来れねえとは言わせねえ。」
「全員が城壁に登るまで終わらないというのは、無理がありませんか。」
「どんなふうに無理かな?」
「登れない者も絶対いますよ。三百里歩くだけでもあやしいものです。」
「全員登るまで終わらせないよ。何日でも待ってやるぜ。」
「えっ! それはあまりにも無茶だ。」
「そんなことが許されるはずありませんよ。」
「将軍に怒られちまうな。『バッキャロー韓英テメなにやってんだえ!』って。ありがたいよなあ、頼もしい上官がいてくれて。あの人がいてくれるって思うから俺も安心して冒険できるよ。俺がなんか失敗しても最終的に責任とるのはあの人だ。」
「無責任じゃないですか。」
「いいんだって。あの人俺の何倍の俸禄貰ってると思ってんの? 禄の分はキッチリ働いてもらおうぜ。せいぜいこき使ってやりゃあいいんだよ。偉くなるってのはそういうもんだ。」
「ひどい部下だ。」



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