二、城壁にて(7)

 さんざんな悪口雑言を吐き散らしたせいか、俺達はなんとなく意気消沈して帰路についた。隊長がふさぎこんでいたせいかもしれない。なぜ不機嫌だったのか分からない。楽しい遠足がもうすぐ終わってしまうからだろうか。哀しい気分はみんなにも伝染した。
「月も沈んじまったな……。」
「寒イ。」
「足が痛いよ。」
辛いばかりの行軍になった。鎧も鉛のように重い。っていうか鉄でできているから、当たり前に重い。鉛と鉄の比重はどちらが大きいんだか知らないが。とにかく鎧の重さが総身にこたえた。
「隊長、鎧が れて血が出てきました。鎧を脱いでもいいですか。」
「脱ぐってかい。ハイ流れ矢に当たって死亡、ご愁傷様サヨウナラ。」
「だって痛いですよ。」
「あとでお薬塗って痛いの痛いの飛んで行けってやってやるよ。」
「我慢して着たまんま頑張ってるとどんどんひどいことになっちゃうじゃないですか!」
「ケッケッケッ、日頃からしっかり調整しとかねえからだよぉ。ちったあ痛い目見やがれ。罰だ罰。」
「鬼ですか。」
「鎧が合ってないことが今日分かってよかったよなあ。俺に感謝しろよ。」
「エーン、痛いよお。」
「あとたった六十里じゃん。もうしばらくの辛抱だぞ。なんつってよお、こっからが長いよな~。可哀相によ。へっへっへ。」
「人でなしだ……。」

 隊長の言った通り、最後の六十里が悪夢のように長かった。歩き続けているのに少しも進んでいる気がしない。このまま一歩進むごとにずぶずぶと黄泉にまで沈み込んで行くのではないかという錯覚にとらわれる。誰に言うともなくぶつぶつと愚痴を言い始める俺達。
「あ~~、まだ小休止になんねえのか~~?」
「さっき小休止終わったばっかだぜ……。」
みんなの集中力が切れ始めた時、隊長がふと
「なんか軍歌うたおうぜ。定軍山ていぐんざん。」
と指示を出した。
  旱蓮樹上鷦鷯啼…… (旱蓮かんれん樹上 鷦鷯しょうりょう き……)
歌に合わせて歩を進める。何も考えない。俺達が歩きながら死んでしまったとしても、歌が俺たちのむくろを南鄭まで歩かせてくれるだろう。軍歌にはそういう力がある。



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