二、城壁にて(9)

 俺は隊長を下に残してさっさと城壁を登ってしまった。とくに考えがあってしたことじゃない。元気があるから、早い者勝ちだと言われてさっさと登っただけだ。隊長は下に残り、登るのに手間取っている奴らをはげましている。はげましているのかいじめているのかよく分からないが。
「ほら頑張れ頑張れ。登んなきゃ終わんないぞ。鍵縄で登ったことあるんだろ?」
「ああもう落ちる~。」
「落ちたら死ぬぜ。ケッケッケ。登れ登れ。さっさと登ってメシにしようぜ。」
すかさず城の上から隊長に質問がでる。
「食事の用意なんてあるんですかー?」
かまどに鍋置いてあるだろ? 火をつければすぐ食えるようになってるはずだぞ。」
「あホントだー。蓋開けてみていいですかー?」
「全員登るまで待っとけって。」
たちまち城壁の上から、下にいる仲間に向けて怒号が飛ぶ。
「早く登って来いよ!」
「腹減ったよ!」
俺達は三百里を踏破したうえに軽々と城壁を登った自分達の快挙に酔っていた。何人かの落伍者は出るかもしれないが、俺達は世界で一番の精鋭だ。

 待つことにも飽き飽きしてきた。腹も減っている。早くメシにしようじゃないか。まだ手間取っているのはどいつだろう。イラつきながら城壁の下をうかがってみる。
「最後の一人だなあ。」
「あいつ登れんの? ふらふらじゃん。」
「あ~あ、腹減ったなぁ。」
俺達の苛立ちをよそに、隊長はバテバテの戦友に優しく声をかける。
「ちょっと休憩しようぜ。飴ちゃんやるよ。」
隊長の声は不思議だ。大声を出しているわけでもないのに、すごくよく通る。これもきっと一種の妖術に違いない。……飴のこと、飴ちゃんって呼ぶのかよ。っつーか持ち物は水筒の水だけじゃねえのか。なんでテメエだけ飴玉持って来てんだよ。俺の苛立ちはますます募る。
「大の字になっちゃったよ。」
「いつまでやるんだろう。」
「隊長ー、いつまでやるんですかぁ?」
「早くメシにして下さいよー。」



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