二十、お山の鳥の声(2)

 俺らは陽動隊か。陳倉の奴らが「蜀軍が近々攻めて来るらしいぞ」って言ってる最中にいきなり奇襲部隊が目の前に現れるってわけか。ふうん。まあ、敵を欺くにはまず味方からと言いますから、俺達はふつうに真面目に遠征の仕度にとりかかる。
 仕度といっても、俺達がやることは、受け取ったものを配ったり梱包したりするぐらいだ。物品の手配をする係の人が忙しいだけだろう。あとは、心の準備か。まあ、北伐もこれが三度目だから、改めてじたばたすることもない。所帯持ちの奴とかはいろいろあるのかもしれないが、そんなことだって、まあ半日もあれば充分だろう。退屈まぎれにせっせと刀を磨いてみたりする。と、身近にもっと退屈な奴がせっせと鍋を磨いていたからびっくりした。隊長のやつ、隊長のくせに退屈し過ぎだろう。働けよ。
 三日後の巳の刻だ。今回は出陣式もないし盛装でもないが、戦支度をした隊長が騎乗している姿はなんとも見映えが良い。なんなんだろう。きっと、さあ遠征だ、ってこっちの気がたかぶっているから、見るもの全てが刺激的に見えるだけなんだろう。べつに隊長自身がとりたててカッチョイイわけではない。
 前回の遠征では十日かけて陳倉まで行ったが、今回は六日間で行く。身軽な連中だけが最低限の荷物を持って先行し、輜重部隊は後からぼちぼちやって来る。くねくねくねくねと、似たような景色を何度も見ながらせっせと坂道を登る。
「あ~あ、なんかお楽しみはないんですかねえ。」
「鳥の鳴き声聞いて、どんな鳥がいるのかな~って調べたりとか?」
「え~、それ地味。超地味。ジジイみてえ。前々から思ってたんですけど、隊長って、感性がなんかジジイっぽいですよね。」
「まあ、年も年だし。」
「三十四歳ですよね。壮丁そうていですよ?」
「首の皮一枚で壮丁だな。」
可笑しげに笑っている。感性がジジイっぽいとか言われても、怒らないのか。面白くねえな。
 道の単調さに発狂しそうになりながら、六日間せっせと坂を登ったり下ったりして秦嶺しんれいを抜ける。西日にきらきらと輝く渭水いすいに優雅な橋がかかっている様は相変わらず美しい。前回の遠征でここにさしかかった時、俺が「橋を手つかずで置いておくなんて、郝昭かくしょうとかいう奴はずいぶんぬかってますね。」と言ったら、隊長は「偉い奴だな。こういう有用な建造物を安易に破壊するのはよくない。」と言っていた。その時は、敵を過大評価してるだけだろうと思っていたが、その後の陳倉攻めで、実際に郝昭かくしょうが手強い相手だと分かった。今回、郝昭かくしょうは重病だということだが、どうなんだろう。健在だったら怖えな。



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