二十、お山の鳥の声(4)

 隊長も俺達も城外で待機、丞相と将軍たちは城に入って行った。さっき唐突に姜奉義きょうほうぎの名前を出してしまったが、魏鎮北ぎちんほく姜奉義きょうほうぎはそれぞれ軍を率いて一緒に秦嶺を越えて来たんだ。姜奉義は隊長より若い。それになかなかの男前だという噂だ。俺は間近で見たことはない。どんな人なんだろう。どんな奴だか知らないが、地縁も血縁もないのに若くして頭角を表すような男はきっとさぞかし異常な人物であるに違いない。俺のような常識的な良民の目から見れば、きっと、いかれてる、ついてけねえ、という印象になるのではなかろうか。あまり関わり合いになりたくないものだ。
 騎乗して城から出てきた二人の将軍は、そのまま馬を進めながら
「これから散関さんかんを攻略に向かう。」
と言って騎兵を率いて散関に向かい先行した。我々も馬の並足なみあしくらいの速度で騎兵隊に続く。って、分かりづらいか。人間様の小走り程度の速さだ。
陳倉から散関はすぐ近くだ。ほどなく前方に砂煙が上がるのが見え始めた。先発の騎兵と関所の守備隊が戦っているのだろうか。
「早く着かないと騎馬の奴らに残らずお手柄持ってかれちゃうんじゃないですか?」
「俺の仕事は大慌てで走らされたバテバテの兵隊を砂煙の中にぶっ込んで窒息させることじゃないんだ。」
悠然と笑っている。呑気な奴だ。
 関所に到着すると、案の定、関の上には我が軍の旗が翻っていた。
「ほら、言わんこっちゃない。」
「よかったじゃん。他の連中がキッチリ働いてくれてよ。将軍がお手柄たてれば麾下きかの全員に自動的におこぼれが来るんだからどの部隊が働いたって同じだろ。」
「功名心とかないんですか?」
「せっせと働いて将軍に功名立ててもらってせいぜい将軍に大事にしてもらえばいいじゃん。」
「将軍の栄光を我が身の栄光と考えるわけですか?」
「ギャハハハ、それウケる。どんだけ忠犬なんだって感じ。まあいいけどよ。」
「いいんですか?」
「どうでもいいぜ。」
「やっぱお料理すること食べることしか考えてないんですね。」
「ケッケッケ。」
ふうん。まあいいけどよ。
 全部隊が関所に到着し、点呼も終え武装を解こうとした矢先、非常呼集がかかって再び出撃した。敵の援軍が近付いているということだった。この敵も結局、騎兵隊が撃退した。速さがものを言う戦場では歩兵の働き所がない。まあ、楽して飯食わせてもらえるんだから、結構ずくめだけどさ。
 手持無沙汰で関所に戻り、武装を解き、晩飯を食う。今日は骨折り損のくたびれ儲けだった。隊長は楽しげに
「やっぱまともに蒸した米は旨いね。」
と喜んでいる。行軍中はほしいいとかそんなのばっかだったから、確かにまともに煮炊きしたものを食えるのは嬉しい。しかし、それにしても満ち足りた顔しすぎだろう。食を以て天と為すかよ。



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