二十、お山の鳥の声(5)

 夕食後、隊長が細い月を眺めながら珍しくしんみりした顔をしているので、
「なに物思いにふけってんですか?」
と聞いてみた。
郝昭かくしょうのこと考えてた。」
「この手で倒せなかったのが残念だって? 誰が討ち取ったんですか?」
「病死だってよ。」
「へえ。じゃ後任の奴を倒して陳倉を落したんですか?」
「いや、寝込んでて交代の奴が来るのを待ってるところを我が軍に襲撃されて容体急変して死んじゃったってさ。」
「ふうん。それ、戦死の扱いになるんですかね?」
「戦病死じゃねえ? 気の毒だな。」
「戦死と戦病死では遺族手当の額が違いますからね。」
「陳倉の守備隊の人数、たった千人だったってよ。」
「どうりで迎撃に出てこなかったわけですね。」
「あんな重要な拠点をよくもまあたった千人だけに任せておくよな。堅城だからしっかりやれって放っとかれてたのかな。」
「すぐ援軍が来るんじゃないですか。」
「前回は我が軍の力任せの猛攻を半月余りの間たった千人で防いでたわけだろ。援軍が着いたのは丞相が陳倉攻略を諦めた後だ。」
「まあそのくらいは持ち堪えるだろうと見込まれてたってことなんじゃないですか。」
「千人でねえ。いつ何時なんどき敵が現れるとも分からねえしよ。寿命も縮むわけだよ。」
「なに同情してんですか。」
「重かったろうなと思ってさ。大した人だよ。郝昭かくしょうが健在な限り、いつまでも陳倉は落ちなかったんじゃねえかな。だから今回病気に付け込んでエイヤッと攻め獲っちまった丞相の判断は正しい。人でなしだけどな。」
ここで隊長はなぜかケラケラと笑い始めた。
「だから戦争なんかやっちゃだめなんだよ。人間が人間じゃなくなっちまう。」
なにが可笑しいのだろうか。



《広告》
ページ公開日: 最終更新日: