二十一、血盟(5)

 翌日、うちの部隊は午後が休みになり、代わりに夜に隊長のちょっとしたおしゃべりの時間が設けられることになった。なんだか分からない。懇談会ってやつか?「ちょっとしたおしゃべり」っていうのは隊長が言った言葉だが、アイツはおしゃべりなんか放っといても勝手にぺちゃくちゃやっているから、わざわざ改めておしゃべりの時間を設けるというのは意味不明だ。
 俺はとりたてて何かを手伝えとは言われなかったが、なんとなく不気味なので、午後はヤツが何を始めるのか遠巻きに見守っていた。なにやらせっせと木を組んでいる。焚火だろうか。王仲純が近付いて行って
「手伝いましょうか。」
と気軽に申し出て二人で和気あいあいと作業を進める。恐れを知らない奴だ。
 木を組み終わると、頭や臓物を取り外して熟成済みみたいな感じの羊だか山羊だかの肉を十数頭分どこからか運び込んで来て、何やら包丁を入れたり下味をつけたりと、下ごしらえしている。晩のおしゃべり会の時に焼いて食わせてくれる気だろうか。遠征が終わったからお疲れ様会でもやるのかな。
 日が傾きかけた頃に火を入れ、ぼちぼちと焼き始める。いい匂いだ。約束の時間までまだ間があるが、みんな匂いにつられてぼちぼちと集まって来る。ヒマ人ばっかりだ。
「なんの肉ですか?」
「羊だよ。匂い嗅いで分かんねえの?」
上機嫌で火加減をみている。
 全員が集まり辺りが薄暗くなり始めた頃、定刻になりつつがなく開会する。とりたてて開会の辞があるわけではない。隊長が周りを見回して満足げにニコッと笑って何かをしゃべり出したらそれが即ち開会だ。
「いい匂いさせてるけどまだ焼き上がるまで小半時はかかるぜ。」
ずいぶん呑気な開会の辞だな。
「ちょっとさあ、適当にぎゅーっと集まって座ってくれる? ちっちゃい声で話すから。」
まさか宗教の勧誘とかじゃねえだろうな。不気味だ。みんなは疑いもなく素直にぎゅーっと密集する。隊長はちっちゃい声というよりは普段のふつうの地声で話し始めた。というのはつまり、五十歩四方に展開している五百四人の歩兵隊に向かって語りかける声ではなく、身近にいる数人と雑談するような声ということだ。まあ、隊長は地声もそこそこでかいのだが。



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