二十二、標的(1)

 次の日、訓練の時に、隊長は何やら派手な意匠の装置を持ち込んできた。貴族の屋敷にでも置いてありそうなおもちゃだ。黄屯長が無遠慮に
「なんの道楽ですか?」
と訊ねる。
「道楽じゃねえよ。これは時間を計るものだ。この上のお椀のところにジャーっと水を満たしとけば、下にいる鳥さんたちが一羽ずつ順々にお辞儀をしていって、十羽目がお辞儀をするとき下にある鐘をつついて音が鳴る。水を満たしてから鐘が鳴るまでの時間が、一時いっときの十分の一だ。」
「そんなに時刻を細かく刻んで一体なんの役に立つんですか?」
一時いっときの十分の一って時間は、武術の立ち合いをするのにちょうどいい長さだと思わねえ?」
「立ち合いするんですか?」
「うん。やろっかなと思ってさ。誰か俺とやりたい奴いる? 盾と木刀。一対一。」
数人が手を挙げる。初めて隊長と散兵戦をやった際に、真っ先に隊長に挑んで金的攻撃で倒された軍刀術の名人周子儀しゅうしぎが、
「俺に譲れ。」
と言って他の奴らを退けた。隊長はにっこりと笑った。
「今日は反則攻撃しないぜ。行儀よく盾と木刀を構えて、親衛隊員らしく格調高く戦う。子儀しぎはどんな手を使ってもいいからな。時間一杯闘い続けろ。俺を殺せ。」
「冗談言わないで下さいよ。」
憎々しげに木刀を取りに行く。

 面白い見世物が始まった。何でもありの格闘なら無敵の隊長が、部隊一の軍刀術の名手と刀で勝負する。どっちが勝つのかな~。ワクワク。俺はもちろん子儀を応援する。
 金鼓手きんこしゅ張季栄ちょうきえいが時計に水を満たす。隊長と子儀が垢抜けた動作で盾と木刀を構える。闘いに臨んでまともに構えをとる隊長を初めて見た。……超カッコイイ。
 子儀が最初に打ちかかる。隊長が盾でかわしながら木刀で突く。これも防がれる。音がすごいんだけど。お互い完全に殺す気でやってるだろう。怖すぎる。ガンゴンとすさまじい音を立てながらやり合っている。ふうん、軍刀術ってこういうふうにやるのか。知らなかったよ。実戦では名人同士が腕を競うなんて場面はまずないからな。両名の闘いの様子は口ではうまく説明できない。くるくるとあらゆる技を駆使しながらなんかめまぐるしくやり合っている。二人とも動作がいちいち美しい。
 時計の二羽めの鳥さんがお辞儀をした頃、隊長が
「ハイ、死亡!」
と言うと当時に、子儀は喉を押さえて悶絶した。突きが入ったらしい。子儀が死んでいないのは、たぶん突く直前に隊長が力を抜いたんだろう。子儀は四羽めの鳥がお辞儀をする頃まで苦しげにゲホゲホ言ってから、ようやく隊長に
「参りました。」
と言った。
「参りましたじゃねえ。闘え。時間一杯やれっつったろ。」
殺気を漲らせた構えの姿勢で子儀を待っている。



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