二十二、標的(3)

陳屯長が渋面をつくりながら訊ねた。
「なんですか、今の。」
「え~、なんだろね? 地獄のしごき? ギャハハハハ。」
「悪ふざけにもほどがありますよ。兵隊はおもちゃじゃないんだ。」
「おれ大真面目にやってんだけど。毎日一時いっときちょいの時間を使って、一日に十一人ずつ立ち合いやろうと思ってるんだ。一月半ひとつきはんで一順するだろ? 次の遠征までに一人あたり何回立ち合えるか知らないけどさ。」
「全員に隊長に対する恐怖心を刻みこもうという……。」
「違うよ。逆、逆。俺が司馬懿を殺そうって言ったら、司馬懿なんか絶対ごっつい親衛隊に守られてそうじゃないですか、っつって尻ごみしてる奴がいたからさ。親衛隊員なんて大したもんじゃないんだっていうことを知っといてもらいたくてね。」
「大したもんですよ。」
「大したもんじゃないよ。俺が不死身だっていう噂があるけど、べつに不死身でもなんでもねえからな。俺を殺せ。」
ニヤリとしてみんなを見まわす。
「毎日十一人ずつ叩きのめす。俺を殺すか、司馬懿を殺すか、どちらか達成しない限りこの地獄は終わらねえからな。そう思え。」
迷惑な話だ。十一人と言えば、什の成員と什長を合わせた人数だ。うちの部曲には什が四十五個ある。確かに、一月半で一順するな。そうか。ヤツと立ち合うのか。一対一で。怖すぎる。俺の番が来るまでに、誰かアイツを殺してくれ。

 その日は子儀が所属している什の成員が血祭りにあげられた。べつに隊長は血祭りにあげているつもりはないんだろう。自分より強そうな相手にも立ち向かっていける精神力を育てようという意図だと思う。べつに隊長に勝つことを要求しているわけではないし、隊長が相手をやっつけようとしているわけでもない。ただ、「イテテテッ」ってなって動きが止まったり、戦意喪失することを許さないだけだ。とにかく体の中のどこか一部分でも動けば時間一杯闘い続けることを要求される。生き地獄だ。
 翌日から、午前に五名、午後に六名という配分で、毎日一対一の立ち合いが行われた。当日やる什の連中だけが立ち合いを見学し、他のみんなは陳屯長の指示下で違う活動をする。どんな様子なのかなと思って横目でチラチラ伺いながら他の活動をしているが、立ち合いをやっている連中はとりたてて大怪我をすることもなく、ひととおり生き地獄体験を終えたあと、まあまあ無事に戻って来る。隊長を殺す奴も、噛みつく奴も、今のことろは出ていない。みんなこぞって金的攻撃を企てているが、誰も成功していない。
 これを半月ほど続けた頃、戟盾隊げきじゅんたいしゅう隊長がぶらりとやって来て、立ち合いの様子を遠巻きに見物し始めた。最初はにやにやしながら見ていたが、だんだん不気味そうに眉を顰め始めた。そうですよ、周隊長。うちの韓英はいかれた奴なんです。あんま関わり合いにならないほうがいいっスよ。



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