二十二、標的(5)

 翌月、俺の所属する什が隊長の地獄のしごきを受ける順番が回って来た。俺は午後の組の三番目だ。この順番は、隊列を組む時の順番そのままだ。俺の位置は伍の中で前から三番目だ。出来が特によくもなく悪くもなく、ちょうど真ん中ぐらいの兵隊なんだろう。
 午前の部で俺のマブダチの李叔遜がやるので、俺の番が来る前に隊長にとどめを刺してくれと頼んだら、
「おう任せろ!」
と元気に請け合ってくれたが、時計の十羽の鳥がお辞儀し終わった後には半死半生で
「いや~、一時いっときの十分の一、長っげえわ。」
と感慨を述べていた。隊長が五人の人間を立て続けに相手にするところを見たが、立ち向かうほうはいちいち打ちのめされて終わるのに、隊長が息も切らさず始終ピンピンしているのは実に不思議だった。やっぱ生身じゃねえんじゃねえかと疑う。
 午後の部は夕方近くなってから始まる。つまり、みんなが準備体操をしているような時間に午前の部を済ませ、整理体操をするような時間に午後の部をやるんだ。その真ん中の時間は、通常通りの訓練をやる。隊長は何事もなかったようにご機嫌で隊列移動の練習なんかを指示しているが、俺は夕方にひかえている地獄のことで頭が一杯だ。休憩が入るたびに便所に行っていたら、王什長に
「緊張しすぎだよ。」
たしなめられた。
「え~、什長、怖くないんですかあ? あのバケモンと一対一ですよ?」
「バケモノにだって弱点はあるだろ。」
「まさか立ち合いでいきなり拉麺ラーメンの生地をね始めるわけにもいきませんよね。」
「なんかねえの? 弱点。」
「ふつうに向こうずねとか眼球とか、人類に共通の弱点しかないんじゃないですか? 人類じゃないのかもしれないけど。」
「金的狙えよ。周子儀の仇討ち。思い切りブッ潰して立ち合いの継続不能にしてやれ。」
「そうやって什長の番が来るのを遅らせようって魂胆ですね?」
「おまえだって叔遜に頼んでただろ?」
冗談のようにして話していたが、俺は金的攻撃を真面目に検討し始めた。どうせ隊長に滅多打ちにされるのなら、打たせるのを覚悟のうえで思い切り入りこんで一発ガツンと金的打ってやろう。いままでに打ちのめされた仲間たちの仇だ。隊長の防御は堅いだろうが、俺がその一打を決めることだけに専心して策を練れば可能なのではなかろうか。まともにやるんじゃなくて、何か他の動作で釣っておいて騙し打ちにするとか。どう動こうか……。
 午後の立ち合いが始まり、俺の前の二人がやっている間、俺は金的攻撃を決めることだけを念頭に、異常な集中力をもって隊長の動作の特徴を観察し続けた。隊長に何打も打ちこまれることは避けられない。俺はたった一撃を決めればいい。全てをなげうって、そこに集中するのだ。



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