二十二、標的(7)

 止まっていると怒られるから、しかたなく攻撃をしかける。やればやるほど痛めつけられる。背中も腹も腕も足も、どこ一つとっても痛くないところはない。しかし動ける間はとにかく闘わなければならない。隊長を見る。背中を丸めてゼエゼエといっている。
「具合悪いんじゃないですか?」
と聞いたら、ニヤリと笑って
「好機だぞ。殺せ。」
と言われた。いやだよ。返り討ちにされるもん。しかし今なら倒せるかもしんねえなと思って打ちかかると、横ざまにぶった斬られてふっ飛んだ。その動作に耐えきれないかのように隊長はコンコンと咳き込んでゼーヒューと喘ぐ。明らかに病人だ。病人だけど強え。たちが悪い。
 俺はもう時計を見ることも忘れて、半狂乱で隊長に立ち向かっては滅多打ちにされるということを繰り返した。しまいには泣きながら「最悪だ。生き地獄だ。」とわめきながらやっていたので、時計が鳴ったことにも気付かず、王什長に抱きとめられてようやく時間の終了を知った。
 俺が正気を取り戻すまでしばらく時間がかかった。ぼんやりと目の前の光景を眺めながら座っていたのだが、やがてハッと正気に戻って驚いた。隊長がゼーヒューいいながら俺の次の奴との立ち合いを始めている。
「あれっ! 隊長具合悪そうじゃないですか。どうしてまだ立ち合いやってんですか?」
と王什長に訊ねたら、
「あと三人か、じゃ続けよう、って言って、時計に水入れさせてたぜ。」
と信じられない話を聞いた。
「え~? 無茶ですよ。だって唇紫色になってんですよ?」
「あと三人相手するくらいならもつだろうって判断なんじゃねえ?」
「隊長は平気でも、相手するこっちのほうの身にもなってほしいですよ。想像してみて下さいよ。あんな死神みたいな顔色してる人と闘うなんて、こっちが怖いっスよ。」
「鬼気迫ってるよな。俺このあと隊長と闘うの、イヤだなあ。」
そうだった。王什長の順番は最後なんだった。気の毒なことを言ってしまった。



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