二十三、作品(1)

 三日後の朝、定刻に起きて外へ出ると、隊長が楽しげに餃子の皮を作っていた。小さい麺棒を使って、目にもとまらぬ早業で次々とまあるい皮を量産していく。周りにはちょっとした人だかりができている。
「上手いもんですねえ。」
「北方では餃子の皮が作れないと嫁が貰えねえってよ。」
「え、なんですかそれ。」
「さあ。餃子の皮作りは男の仕事だってことなんじゃねえ?」
「じゃあ張車騎も餃子の皮なんか作れたんですか?」
「うん。これ張車騎に習ったもん。おまえ餃子の皮がこれだけ作れりゃえんに来りゃあモテモテだぞ、って言うから、そんな技術がなくてもふつうにモテます、って答えたら、ガハハハって笑われた。」
「モテるんですか?」
「宗教の勧誘の女にな。」
「そんなカネ目当てみたいな女は相手にしないほうがいいですよ。」
カネ目当てとは限らねえぞ。なんか、勧誘活動にどのくらい従事したとか、何人引き込んだとか、そういう貢献の度合いによって宗教団体の中での地位が上がってったりするんじゃねえ? そんで、その評価は男女の区別なく行われるんじゃねえかな。頑張れば男女問わず偉くなれるってわけ。そう考えれば、女ばっかが熱心に勧誘活動してる姿が目立つのもうなずけると思わねえ?」
「それは隊長が女に弱そうな顔して歩いてるから女の勧誘要員ばっかに狙われるんですよ。」
「それどんな顔だよ。」
笑いながら目にもとまらぬ早業で餃子の餡を包み始める。
「ところでなにのんびりしてるんだ。点呼は?」
そうだった。兵隊の朝は脱兎のごとしだった。隊長のやつ、一人でのんびりしていやがって。

 朝の一連の日課を終えて隊長のところに戻ると、折よく茹であがった餃子を皿に移しているところだった。
「小麦粉の茹であがる香りはいいねえ。」
なぜか餃子のほうには目もくれず茹で湯だけになった鍋に愛おしげに顔を寄せている。変な奴だ。
 今日ごちそうになる番の連中と一緒にご機嫌で食べ始める。俺も当然の権利としてありつく。確かに、茹でた小麦粉の香りはいい。ほかほかと甘い香りが飾り気なく健康的に空間を満たす。つやつやと照り輝く白い肌、小ぶりながらもむっちりとした姿。箸で摘むと気持ちのいい弾力が伝わってくる。つるりと口に入れて、優しく噛む。熱々の肉汁が口中に弾け飛び、
「おまえ金的攻撃について誤解してるだろ。」
ゲッ。ひとが美味しく餃子を味わおうとしてる時になんて話を始めやがる。



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