二十四、賞月(11)

 俺は腹が一杯になったら眠くなったので、鶏が鳴いたら起こしてくれとお袋に頼んで無責任に寝てしまった。ああなんて自由なんだろう。たまにはこういう時間も必要だ。さっき姪っ子とふざけて遊んでいたら、疲れ知らずにもっと遊び相手をさせようとして俺の上に乗っかって来て俺を起こしにかかる。兄嫁が叔父さんはお疲れなのよ、とか言いながら姪を引き離そうとしているが、俺はべつに苦にもならないから半分寝ながら姪っ子をコチョコチョとやってじゃれる。男女七歳にして席を同じくせずとか言うから、この子供とこんなふうに遊べるのはこれが最後かもしれない。
 姪っ子より先に俺が眠りに落ちたと思う。二時ふたときぐらいぐっすり眠ったところで、七歳の二番目の甥っ子の蹴りで目が覚めた。すさまじい寝像だ。なぜ敷布団から九割方落っこちながら足だけ器用に俺の枕に乗せて寝ているのだろうか。きっと鬼ごっこをしている夢でも見ているに違いない。
 外はまだ暗い。隊長はどうしているだろうか。あいつは異常に早起きだから、張屯長を巻きこんで今頃はとっくに南湖に待機しているかもしれない。あんまり時間ギリギリに戻ると、若い奴は眠りが深くて羨ましいぜ、とかなんとか嫌味を言われそうだ。
 想像しただけで腹が立つからむっくりと起き上がり、さっさとでかける仕度をする。寝ているお袋を無遠慮に起こし、
「ちょっと早いけどもう行くから。」
と言ったら、慌てて起きて
「茹で卵もっていきなさい。」
と言って火をおこそうとするので、
「え、今から茹でるの? いいよ。」
と、感謝も知らない親不孝のわがまま息子らしくさっさと出かける。もし兄貴がこれを目撃していたらきっと怒るだろう。しかし次に会う時にはきっと俺が兄貴の寝てる間にあいさつもなしにとっとと出かけていったことなんか忘れて笑顔でおかえりと言ってくれるはずだ。まあもし万が一俺がこれを最後に家に帰る機会のないまま帰らぬ人にでもなったら兄貴は「あいつ俺の寝てる間に出かけて行きやがって」ってずっと思うのかもしれないが、俺が死んだあとの話なんか俺の知ったことじゃない。
 無造作に戸口から出て、愛する我が家をさっさと後にする。俺が大好きな家族をじゃけんにして大嫌いな隊長のところにいそいそと戻るのは、歌にあるように、去る者は日に以てうとく、きたる者は日に以て近し、というわけなのだ。
 まだ時間が早いが、とりあえず王什長の家に行く。家の中から物音や話し声が聞こえてくるから、無遠慮に
「什長~、起きてますか~?」
と呼びかける。
「おう。」
爽やかに返事が帰って来る。異常に早くやってくる迷惑な部下を嫌がらずに相手してくれる。優しい。



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