二十四、賞月(8)

張屯長たちが息せき切って戻って来た。
「はい、終了~。お疲れさん。」
文喜は涙や砂でぐちゃぐちゃになった顔に安堵の表情を浮かべた。
「はい、じゃ次、幼珪。時計係のみなさん、走って下さい。」
マジか。立て続けか。張屯長たちはゼーヒー言いながら文句一つ言わず走り始める。隊長はにっこりと笑った。
「はい、始め。」

 隊長は真面目な表情で短い棒を構える。
「棒、取り換えないんですか?」
「うん。これ意外に使いやすい。匕首ひしゅだな。」
言下に盾で盾を払いのけながら幼珪の喉を突く。ゲッと咳き込みながら隊長にひざ蹴りを加える。隊長は痛くもなさそうにご機嫌で
「やるじゃん。肉を切らせて骨を断つってやつ?」
と言いながら幼珪の後頭部をぶった斬る。いやいや隊長、肉を切らせてじゃないっす。ここまでに幼珪もう二回死んでますから。幼珪は致命傷を負っても全くひるまずどんどん向かっていくからすげえなあと思う。実戦だったら一撃目でとっくに死んでいるから全く使い物にならないが、根性だけは買う。そもそも立ち合いの目的は精神力を鍛えるためであろうから、幼珪はよくやっていると思う。
 隊長は短い棒で幼珪を滅多打ちにする。幼珪は盾の端で隊長を突く。顔面に隊長の突きを食らって両方の鼻の穴から鼻血を出す。鼻血でゲホゲホと呼吸困難を起こしながら棒をめちゃくちゃに振り回して打ちかかる。隊長の匕首で斬られたり突かれたり、何度も死亡しながら闘っている。
「やるねえ。」
隊長の野郎、上機嫌だ。やるねえ、じゃねえよ。とっくに死んでますから。隊長は突如恐ろしい顔になって幼珪をところかまわず滅多打ちにし始めた。目にも留まらぬ猛攻だ。たまらず盾を取り落としてよろめく幼珪を情け容赦なく叩きのめす。
「ハイ、死亡。」
と言いながら肋骨と肋骨の間を棒でぐりぐりと押す。
「ほらほら、殺されるぞ。動け。」
面をポカリと打って間合いを取り直す。
「ほら来いよ。俺を殺せ。」
走っている連中はまだ来ないのか。足音もまだ聞こえてこない。
「グズグズしてると滅多打ちにされちゃうぜ。」
隊長が不用意に幼珪に近付く。と、幼珪は砂を掴んで隊長に投げつけながら猛反撃を始める。
「やるねえ。」
隊長はへらへらしながら目を閉じたり開けたりしつつ防戦する。匕首でドン、ドン、ドンと三回突いて幼珪をぶっ飛ばした勢いで、かさにかかって滅多打ちにする。やっと張屯長たちの足音が聞こえ始めた。



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