二十四、賞月(9)

「急げー!」
「殺されるよ!」
みんなが張屯長たちに呼びかける。迎えに行く連中もいる。隊長は恐ろしい声で
「死ね!」
と言いながら棒で幼珪を打ちつける。幼珪は呻きながら隊長に壇中打ちを食らわせる。やったぜ、それ隊長の必殺技じゃないか。今日は隊長の武器が短いぶん、素手による打撃が入りやすいらしい。壇中打ちの効果空しく隊長は元気いっぱいに幼珪を突きまくる。ようやく張屯長たちがゲホゲホと咳き込みながら帰ってきた。隊長はにっこりと笑った。
「はい、終了。お疲れさん。」

 張屯長たちは幼珪のために目いっぱい急いで走ってきたらしい。バッタリと倒れ込んでゼーヒーいってる奴や、オエッてなってる奴もいる。この様子からすると、インチキして岬まで行かずに戻って来たということもなさそうだ。そういうズルをすれば隊長はきっと見咎めて激怒するとみんな分かっているんだ。隊長は上機嫌で幼珪と文喜に笑いかけた。
「みんなスゲエ頑張って走ってきてくれたぜ。よかったな。」

 みんなの息が整うまで静かに待つ。と、隊長がおもむろに酒壺を手に取り幼珪と文喜のところに歩いて行った。
「これ、君らにやるよ。」
二人はきょとんとした顔で隊長を見る。
「二人を見つけ出した奴にはこの酒をやるって約束してたんだけど、自分らで帰って来たからな。これいい酒だよ。二十年もの。幼珪と同い年だな。」
ふうん。つまり、隊長は幼珪が生まれた年にはもう軍服を着てたってことか。親子ほどの年の差があるわけでもないのにな。ご苦労なこった。
「さあ隊長、お月見しましょうよ!」
張屯長が元気いっぱい隊長に呼びかけた。ほんと呑気な人だな。
「よし、じゃみんな家に帰っていいよ。コッソリね。明朝たつの刻に現在地に集合。」
「えっ!」
「月見って言やあ家族そろってするもんじゃん? こんな夜中に突然帰って家に入れてもらえるかどうか知らねえがよ。」
夜間はどこの集落でも門が閉ざされているのだが、夜間演習の証明書を持っているから通行できるはずだ。
「什単位で行動して、什の全員の今夜の居場所が確定してから解散してくれ。んで、戻ってくる時も什全員がそろってから一緒に戻って来いな。」
部隊編成は出身地別に行われているから、什の仲間はみんなご近所同士だ。
「そんなことして大丈夫なんですか?」
りょう屯長が不安げに訊ねる。隊長は笑いながら答えた。
「だからコッソリやれって。ま、おれ将軍に夜間演習って名目で月見をして来るってキッチリ言って来たから、もしなんか難癖つけてきたら、月見って言やあ家族そろってするもんじゃねえのかい、って逆ギレしてやるよ。」
「ぶっ飛ばされますよ。」
「ぶっ飛ばされて済むんなら安いもんじゃねえか。」
笑いながらそんなことを言ってくれる。ありがたい。



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