二十五、鏡(10)

 いつのまにか組打ちになっていたらしい。手に手を取り合って立ち上がり、服についた砂をぱんぱんとはたく。
「ありがとう。」
「お疲れさん。」
「さて、参考になりましたでしょうか。」
隊長がみんなを見まわす。
「あれっ、無言?」
「ギャハハハ、ダッセー。」
鍾師範が腹をかかえて笑う。
「おい文彬、どうよ。」
「はい。えっと、なんかスゴすぎて。」
「参考になんなかったってかい。ギャハハハ、俺あ往復二千里の無駄足だってわけか。恐れ入ったね。」
「俺みんなのほうがよっぽどスゲエと思う。この人とやっててもそうそう死ぬことはないだろうけど、君らとは三日に一度くらい生命の危険を感じながらやってるんだぜ。」
「まさか。」
「いやマジで。だって全然読めねえんだもん。なんだ今の動き、天才か? って思うことがよくあるよ。普通そこでそうは動かねえよ、って度肝を抜かれちゃう。でもさあ、なんだ今の、捨て身の攻撃かよふざけんな、って叱りつけたい時が多々ある。だから軍刀術で覚えてもらいたいのは、防御。」
「でさあ、今のどっちが勝った?」
鍾師範がニコニコしながら観衆を見まわす。
「あれっ、無言? 関心ねえのか? ギャハハハハ。異度おめえ兵隊を甘やかし過ぎだ。」
「質問に対して即座に返事しねえとぶっ飛ばす、っつって脅かしときゃいいのか?」
「俺に聞くなって。」
俺達がキビキビしてないと隊長が鍾師範に馬鹿にされるわけか。隊長も案外ゆるいからな。甘やかし過ぎと言われれば、甘やかしすぎなんだろう。さて、どっちが勝ったか、か。う~ん。身びいきで隊長のほうが若干優勢だったかなという気もするが、まあ引き分けだろう。それとも遠方からわざわざ来てくれた鍾師範の顔をたてて鍾師範の勝ちだって言ってあげたほうがいいのかな。みんながなんとなく答えをためらっていたら、張屯長があっけらかんと
「引き分けです。」
と答えた。
「引き分けか~。ギャハハハ。」
「罰杯一杯。」
「お酒用意しましょうか?」
俺があわてて訊ねると、
「いやいや、そういう慣例があったっていう思い出話だよ。」
「引き分けなら罰杯一、負けたら罰杯二、勝った奴にはご褒美で三杯もらえるんだ。」
と口ぐちに教えてくれた。



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