二十五、鏡(14)

鍾師範は小半時もその場でいびきをかいていたかと思うと、突然ろれつの回らない口調でもにょもにょと言った。
「ところで拉麺はいつ食わせてくれるんだ。」
「明日の朝おめざに作ってやるよ。」
「何イ? 早く食わせろよ。今日このあと締めのお食事に出せ。」
「いいけどよお、お前いま食ったって明日には絶対忘れてるだろ。」
「忘れるわけあるかよ。万一忘れたらもっかい作れ。」
「めんどくせえな。」
「何イ? 俺あおめえの一言でわざわざ半月もかけて千里を厭わずやって来たんだぜ。それをめんどくせえとは何事だ。」
「行軍遅っせえな。三日で来い。」
「殺す気か。」
「いつかはな。」
そう言いながらさっそく拉麺の生地を捏ね始める。鍾師範は俺のほうを向いて隊長を指さしながら
「ひでえ野郎だろ?」
と言ってゲラゲラと笑う。隊長の手前、ハイと答えるわけにもいかないので曖昧に笑って済ませる。と、鍾師範は俄かに険のある目つきになった。
「おやお返事なしかい。ハイとかイイエとかなんとかお返事しないと親分にぶっ飛ばされんじゃねえの?」
「おやおや。それでハイって答えたらやっぱりぶっ飛ばされるという地獄の難問だな。だから返事に困るような質問を受けた時点で運の尽きってわけだ。」
「おめえどんだけ子分を甘やかしてんだよ。」
「絡むなよ。ウゼえ。決して暴れ出すんじゃねえぞ。」
「ギャハハハ。暴れたらお前が取り押さえろ。」
「無理だよ。」
「何イ? そんな言葉使ってっと老張ちょーひに殺されるぜ。」
老張ちょーひのいない平和な世の中に住み慣れると自分が生来持っていた自然なへたれ根性が健康的に復活するわけ。」
「お前そういうわけのわからない屁理屈を言うからいっつも老張ちょーひにぶちのめされちゃうんだよ?」
「あれはお互いにとって半ばお楽しみの儀式だったんだ。」
「何イ? こっちは真面目に同情してたのによ。」
「ありがとう。お前いいやつだなあ。」
小馬鹿にしているようにも聞こえるこの発言を鍾師範は言葉通りに受け止めて
「よせよせ。」
と照れる。



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