二十五、鏡(3)

「自分が指導にかかわるのが六カ月間だとして、その次の三カ月間は部隊のほぼ全員が指導にかかわっていて自分だけ暇ということになりませんか?」
「なるね。どう過ごす?」
「じゃあ隊長の立ち合いを見学してますよ。」
「あっそ。了解。」
「隊長の弱点見つけたら教えて。」
仲純が子儀に絡みつく。
「この人弱点だらけじゃないか。」
「でもお前勝てねえじゃん。」
子儀がむっとして仲純を振り払う。
「なんなんだろうなあ。」
子儀と仲純がいろんな角度からジロジロと隊長を眺めながら考え込む。
「性格の悪さが現れてんじゃねえの? まっすぐのはずの木刀がくねくねと曲がりながら盾の横をすり抜けて相手に到達してんのかもよ。」
隊長がこう言ったのは冗談なのか真実なのか、誰にも分からなかった。子儀は真顔で考え込んでいた。

 翌朝からさっそく子儀による軍刀術の指導が始まった。俺達がのんびりと我が軍伝統の生民せいみん体操をやっている横で、隊長に叩きのめされてわあきゃあ言ってる奴らや、子儀にビシバシと仕込まれてる奴らがいて、騒々しい。そのうち俺も軍刀術をみっちりやらされるのだろうが、覚えの悪そうな奴の番が回って来るのは六カ月後だから、俺もたぶん半年間はのんびり過ごせることだろう。
 昼間はふつうに全員で訓練をやって、合図で素早く集合するような基礎的なことから紅白戦のような面白いことまでいろいろやって過ごす。夕方になってみんなが営庭をぐるぐる走っているような時に、一部の連中はまた軍刀術をやったり立ち合いをしたりする。俺個人の日課は従来通りなのだが、視界の端に他の活動をしている連中がいるだけでなんとなく気ぜわしい。
 夕食が済むと隊長はびっくりするくらいの素早さで几案つくえの上に乗っている書類を焼却の箇所に積み替え、ルンルンと石臼を回し始めた。毎日十一人と立ち合いやってるのにくたびれねえのかな、と不気味に思っていると、部屋の外からこちらをうかがう不気味な視線に気がついた。
「隊長、外からこっちをのぞいてる不気味な奴がいます。」
隊長は俺の指さす先を見て、
「不気味な奴ってのは失礼じゃねえか? 覗き方が不気味だけどよ。」
と言いながら立ち上がり、なぜか丁寧語で
「ご用でしょうか。」
と訊ねた。
「はい。いえ。はい。」
「どっちだ。」
「質問があります。」
「あっそ。じゃどうぞお入り下さい。」
コソコソと覗いていたわりには堂々と入って来たそいつは、子儀が選んだ十一人のうちの一人、張文彬ちょうぶんひんだった。



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