二十五、鏡(6)

「いえ、顔じゃなくて、背格好。あと、歩き方とかしゃべり方とか、何から何までそっくりじゃないですか。兄弟でなければ従兄弟って感じですよ?」
「血縁関係はないぜ。」
「なんだろなあ。義兄弟の契り? ギャハハハ。」
なるほど、張屯長はいいことを言ってくれた。不気味な既視感の正体はそれだ。コイツ隊長に似てるんじゃないか。オエ。こんな野郎は一人でたくさんだ。勘弁しろ。
 二人して大股でドカドカ歩いてゲラゲラ笑い合っているのは暑苦しいことこの上ない。チビぞろいの刀盾とうじゅん隊の中で長身の男が二名も並んでるってだけでも圧迫感がある。近くにいるだけでなんかが消耗しそうだ。まだ一日の始まりという時刻なのに俺はすでにぐったりしている。朝礼で隊長は客のことをみんなに紹介した。
「この人は都で御林軍ぎょりんぐん徒手格闘としゅかくとう術を教えている鍾師範しょうしはんだ。ふつうに日当にっとう払って招こうとしたら一日で俺の月俸ぐらい取っちゃう人が、たった一杯の拉麺を食べたいためにわざわざ千里をいとわず来てくれたぜ。」
「言うことが生々しいよ。」
しょう師範は苦笑いした。
「で何? さっそくなんか見世物やればいいわけ?」
「はいそうです。ギャハハハ、さっそくすぎ。」
早々に朝礼を終え、立ち合いも生民体操も軍刀術の練習もなしにして全員で見世物を見るべく両名を取り囲む。隊長と鍾師範がおのおの木刀と盾を手に取るのを見て、こう屯長が訊ねた。
「徒手格闘術の師範に木刀を執らせるんですか?」
「そ。贅沢だよねえ。赤兎馬せきとばすきをひかせて農作業させちゃうような感じ? ギャハハハ。」
「俺もともと刀盾手とうじゅんしゅだもん。」
鍾師範が楽しげに木刀をくるくると回す。
「お二人で立ち合いやるんですか?」
「うん。なんかさ、軍刀術をキッチリ覚えろって言いつつ立ち合いでは何やってもいいよっていうのが矛盾してねえかって疑問に思ってる奴いるみたいだから、どっちもそれなりに無駄にはならないよってとこを見といてもらいたい。」
「エエ~? 俺らでそんなん証明できんのオ?」
「まあ、あなたが軍刀術だけで俺を倒せるとか、軍刀術を無視した動作だけで俺に勝てるとか言うんならやってみたまえ。」
「そんなんいちいち考えながらやれねえよ。」
「だよな。ふつうそうだよ。」
「なんにも練習しねえ先から矛盾してねえかなんて疑問に思うなんざ、ずいぶん頭でっかちな野郎だな。どいつだか知らねえが。」
鍾師範がふっと鼻で笑いながらぐるりと我々を眺めまわす。
「おっ、これ? お前が言ってた酔狂な時計って。だあれもブチ切れてこの時計をブッ壊す奴はいねえのか。ほんとお育ちがいいんだなあ。ギャハハハハ。」



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