二十六、遊び(3)

 俺への指導が終わると、隊長は再び仲純と楽しそうにちゃんばらを始めた。仲よし馬鹿兄弟だ。こうして気さくに遊んでくれるお兄ちゃんが職場にいるというのは、いいものだな。
 隊長は、理想の上官ではないが、理想の先輩だと思う。隊長が隊長の立場で何を言っていても、なに言ってんだよ馬鹿かよ、と思うだけだが、もしも同じ戦列に立っている対等な立場の先輩だとしたら、素直に韓さんすげえなあと思えるだろう。
 俺は隊長のことを隊長として小馬鹿にしているんだ。もし韓異度が上官じゃなくてただの先輩だったら、模範囚、じゃなかった、模範的な兵隊として尊敬するに違いない。韓さんが「なんか小腹減ったなあ。季寧、なんか買って来いよ。」とでも言ったら、お金なんかもらわなくても「はいっ」と返事して走ってなんか買って帰って来る。でも隊長が隊長の立場でそんなことをしようものなら、「横暴じゃないですか。訴えてやる。」っていう反応になるわけだ。まあ、この人がそんな横暴を働くことはまずないが。
 こんなにいい先輩を上官として戴いているのは不幸だ。俺は兵隊として何をやってもかなわないこのオッサンのことを、馬鹿にするようなことは言いたくないんだ。でも、こんな野郎が部曲督なのかと思うと、あまりにも馬鹿すぎる。こんな馬鹿な野郎は、もっと無邪気に暴れられる場所に置いてやるべきなんだ。自分でも荷が重いとか思ってねえのかな。
 そういえば、一回自分の口で荷が重いって言ってたことあったな。着任して三ヶ月くらい経った頃だ。もと部下の楊什長が様子を見に来た時に、楊什長と二人きりになってなんか愚痴っていたっけ。今でもやっぱそんなふうに思っているのかな。毎日ルンルンやってるし、自信満々っぽく見えるが……。

 馬鹿兄弟のちゃんばらごっこを傍目に、俺は真面目くんらしく、さっき教わった型を自分で再現してみながら確認する。ふうん、手首は真っ直ぐね。肘とか脇とか、なんかいじられたけどよく分からないな。こんなだっけ。と思いながらネクラっぽく一人でやっていると、ちゃんばらで仲純をやっつけ終わった隊長が
「えっとね、こう。」
と直してくれた。へえ、こうね。仲純が棒をもう一本持ってきて
「二刀流!」
とふざけると、隊長は棒を二本追加して
「おれ三刀流~!」
とふざけながら、刀一本より明らかに戦闘力低そうな三刀流で仲純とちゃんばらを再開する。
「ああヤベえ! 指おかしくなる!」
「違うよ隊長、三本目は口で持つんですよ!」
「マジか? それ脳震盪起こさねえのかよ。」
言いながら一本の棒を口にガッチリと挟む。ほんとうに馬鹿だ。馬鹿のくせに俺が横でまた型の確認をしているところに寄って来て的確に直してくれる。ふうん、なるほど、こうですか。



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