二十六、遊び(6)

 それにしても恐ろしい。実戦経験の不足と体力不足かよ。それを補強するための訓練なんて、ぜったい辛いものになるに決まってる。子儀は訓練で甘いことやってると本番でひどい目に遭うなんて言っていたが、実戦で白兵戦になる機会なんてめったにないじゃないか。何年かに一度の危機をしのぐために毎日毎日ひどい目にあわされるなんて非効率だよ。どんなに鍛えていたってひどい目に遭う時は遭うんだから、それ以外の時は人生の楽しみを存分に謳歌するべきだ。人生は短いし、戦死する時は一瞬だ。訓練なんか受けていなくたって、運がよければ生き残る。兵隊を鍛えて何かさせようなんていうのは、お上の都合じゃないか。俺の幸福とは関係ない。そんなことのために恐ろしい訓練を受けるなんて絶対ヤダよ。もし隊長が今まで以上に無茶なことをやり始めたら、俺は野郎の寝首をかいてやる。朝は異常に早起きだが、夜寝る時はぐっすり熟睡してやがるのを、俺は知っているんだ!
 俺はその日の晩も翌日の朝も、鼻息も荒く隊長の一挙手一投足に注視していた。もし何かあやしい動きをしやがったら、即座に歯で噛みついてやる。噛みついて、噛んだとこから化膿させて発熱させて倒してやる。……隊長、噛まれても化膿とかしなさそうだな。シュウウって音たてながら即座に皮膚修復しそう。僵屍キョンシーだかなんだか知らないが、とにかく普通じゃないからな。野郎、ぜったい卵から孵化ふかしてるだろ。血液の色は昆虫みたいな青色であるに違いない。
 朝は何事もなく過ぎた。朝からルンルンと栗の皮を剥いて遊んでいた。いつ食わせてくれんのかな。
 朝礼もいつも通りだ。訓練も、俺達が生民体操をして、隊長は立ち合いで今日の割り当て分をキッチリ叩きのめし、子儀が十一人をビシバシ仕込むところまではいつも通りだった。さて、午前の部の立ち合いを終えてご機嫌で戻ってきた隊長だが、このへらへら顔で一体何を言い出すことか……。俺が隊長に噛みつく準備運動として歯をガチガチ言わせていると、隊長はにこやかに意外なことを言いだした。
「棒倒しやって遊ぼうぜ。」
は? 棒倒し?
「ヤッター!」
みんな馬鹿丸出しで喜ぶ。そりゃあね、棒倒しやって遊んでればいいっていうんなら、嬉しいよ。でもなんで?



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