二十六、遊び(7)

 わけがわからないうちに、隊長と屯長達で棒倒しの段取りを決める。至極簡単だ。二組に分かれて、相手の組の棒を倒したほうが勝ち。どこかの村のなんかの祭りさながらに、丸腰でやる。相撲みたいになるのかな。それとも、殴り合い? 時間はさるの刻までで、手抜きを許さず時間一杯めいっぱい本気でやれとのこと。う~ん、バテそう。
「じゃ、怪我しないようにな。はい、始め。」
両陣営、喊声をあげながら一斉に敵陣の棒を目指して走りだす。馬鹿丸出しだ。これ、けっこう怖えな。ふだん訓練でやっているような実戦形式の演習では、重武装で密集隊形組んで歩いて前進するんだ。今日のように、丸腰で、みんなバラバラで、走ってぶつかりあうなんて、怖えよ。全力疾走してる成人男性と正面衝突するのは怖いっス。あ、李叔威りしゅくいが真正面から来るじゃん。コイツは十代の若者らしく非礼で不遜なんだ。その若さが羨ましいぜ。この機にぶん殴ってやろっと。
 べつに向こうからくる相手をかわしてまっしぐらに棒を目指して走ってもいいんだ。ひょいひょいと走っていくか、ボカスカやり始めるかは、趣味の問題だ。俺は意外に凶暴なのでボカスカやる。なるほど、組みついて相手の前進を止めるってテもあるんだな。宋仲兼そうりゅうけんが俺の足を止めに来やがった。ひざ蹴りで倒してやるぜ。うわ痛てっ! ひざ痛てっ! ああクソッ、いま殴ってきやがったのどいつだ? やべえ囲まれた! と思ったら援護が来た! ありがとう李信きしん! 直接言葉を交わしたことはないけどさ。
 ざっくり守備と攻撃を分けた以外は、とりたてて細かい作戦はない。屯長たちが何やらがなりたてながらあれこれ指示を出しているが、血気に逸った若者たちの喊声かんせいにかき消されてなんも聞こえないっす。隊長がゲラゲラと笑いながら
「ほら子粛ししゅく、ぶちのめせ!」
とか
「踏みつぶして行っちまえ!」
とか茶々を入れて来る声だけがはっきりと聞き取れる。ほんとによく通る声だ。ぜったい妖術だろう。隊長はどちらの陣営にも属さず高みの見物をきめこんでいる。楽しそうに傍観していやがって。
 延々と揉み合いが続く。いっこうに勝負がつかない。土埃つちぼこりがひどいんだけど。目がしわしわする。喉もガラガラいってるよ。何人かはもう棒にとりついて、よじ登ったりしてるんだけどな。その度に引きずりおろされてボコボコにされている。後続が怒涛のように押し寄せないと無理だろ。ああ怖え。誰か圧死してる奴とかいねえのかな。マジで誰かを踏みつぶして死亡させていたとしても、きっと誰も気づかないぜ。危険すぎるよ。隊長の野郎、まだゲラゲラ笑ってやがる。こんなふざけた訓練をして死者でも出したら責任問題だぞ!
 何刻経っただろうか。もうクタクタだ。みんな老人のようによろよろしながらやっている。申の刻になる前に、棒を支えてる奴が力尽きて勝手に棒が倒れちまうんじゃなかろうか。それでも手抜きをせずに真面目に攻防を続けているなんて、すげえな。馬鹿すぎる。
 更に時間が経った。頭が真っ白だ。体はガクガクだ。どっちが棒を倒すかなんて、もうどうでもいいよ。でもまだ棒を倒そうとがんばってる奴がいるな。よくやるぜ。頭おかしいんじゃねえか。どっちの棒もまだ倒れていない。守備の奴らも、よくやるぜ。異常だ。俺が厭世的な気分になりながらも敵の守備の連中と揉み合っていると、ようやく
「はい、時間切れ。終了~。」
という隊長の呑気な声が聞こえた。俺はくたびれすぎて不機嫌になりながらばったりと大の字に寝転がった。



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