二十七、徙民考(しみんこう)(1)

 年末には臘日ろうじつの休暇がある。臘日にどんな言われがあるのか知らないが、たぶん一年の邪気を払って新年を迎える準備をする日だ。遠くへ出稼ぎに行ってるような人も、臘日には家に帰るんだ。そしてだいたいここから世間はドカンと正月休みになる。
 シャバから隔絶された軍隊においても、臘日くらいは人並みに休暇がでる。戦でもないのに臘日にまで拘束されていたら、きっと暴動が起こるだろう。っていうか、俺がブチ切れて暴れてやる。
 全員がいっぺんに休みをもらえるわけではない。一部隊に何十人かは留守番で残らされる。誰が残るかは、屯長が各員の希望や家庭の事情、これまでに何回留守番になったことがあるか等を考え合わせて決める。俺は家長でもなければ妻子持ちでもなく、縁談も婚約者も何もないから、とりたてて何が何でも休みをもらわなければならないわけではないが、かと言って「俺留守番でも大丈夫です」なんていう健気けなげなことを自ら言いだすわけもなく、しれっと黙って成り行きを見守っていたら、今年も無事に休暇をもらえることになった。入営してから五度目の年越しだが、留守番に当たったことがあるのはこれまで一度だけだ。

 将校も何人かは留守番に当たる。これは敵襲に備えてというよりは、火事が起こったとか喧嘩騒ぎとかの場合にああしろこうしろという権限のある人がいないと困るから、そういうための係として残るんだ。隊長は去年も今年も留守番係になった。去年は新入りだし年も若いから当たり前だろうと思って気にも留めなかったが、二年連続とは穏やかではない。部曲督になって一年以上経つのにもしかしてまだ仲間外れにされてんのかな。ルンルンと勝栗かちぐりを煮て遊んでいるところに声をかけてみる。
「あのお、隊長ひょっとしてまだいじめられてるんですか?」
「え、おれ生まれてこのかた人からいじめられたことなんかないぜ。」
「それは鈍感だからいじめられてても気付かないってだけなんじゃないですか?」
「ああなるほど、季寧のそういう心ない言葉ももしかしていじめなのかな?」
「いや違いますよ。そうじゃなくって、どうして二年連続で臘日に留守番になってるんですか? これ将校の間でのいじめなんじゃないんですか?」
「ギャハハハ、違う違う。俺が自分から留守番したいって言ったんだ。臘日なんか行くとこねえからさ。ここでひっそりと留守番してるほうが寂しい人なのが目立たなくっていいんだよ」
「え、寂しいと思ってるんならさっさと結婚すりゃいいじゃないですか。今すぐ縁談まとめれば臘日に間に合いますよ。」
「間に合うわけあるかよ。占卜うらないとか納吉ゆいのうとか、いろいろ段取りあんじゃん。」
「内諾だけ得られれば婚約者ってことで相手の実家に転がりこめるでしょう。」



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