二十八、音響兵器(1)

 正月休みは夢のように過ぎた。軍隊生活も六年目ともなると、シャバでの出来事が夢なのか、柵の中での日常が長い悪夢なのか、分からなくなってくる。いつかめでたく定年を迎えて柵の外にほっぽり出された暁には、きっと地面に映る自分の影が半ば太陽を透したスケスケのものになっているに違いない。
 隊長は新年早々元気一杯だ。僵屍キョンシーだか偃師偶人アンドロイドだか知らないが、ここにいてはコイツは紛れもない実体だ。休み明けで半死半生のような顔をして並んでいる部下たちを眺めてゲラゲラと笑っている。
「陳さん、太っちゃったじゃん。奥さん相手してくんなかったの?」
「年をまたいでそんな冗談の続きを言うなんて、実に呆れる。」
「ああそっか。普段は俺様のくだらない冗談を聞かされてやせ細っちゃってるんだな。その体型が本来の姿か。理解した。」
「誤解です。はいはい分かりましたよ。寝正月で太りました。悪うございました。はい、謝りましたよ。これでいいですか?」
「いいわけあるかよ。ふやけた顔しやがって。」
言葉とは裏腹に上機嫌の笑顔で陳屯長のほっぺたを引っ張りながら、みんなをぐるりと見回す。
「どいつもこいつも寝ぼけたツラしてんなあ。」
隊長とともに、留守番に当たっていた連中もゲラゲラと笑う。留守番の奴ら、やたら元気だ。瞳をキラキラさせちゃって爽やかな表情していやがって。きっと正月の間、隊長と毎日おいしいもん食ったり楽しく遊んだりして過ごしていたんだろう。隊長はたぶん、大人しく留守番を務めている健気な部下たちに能う限りのお楽しみを与えてやろうというぐらいのことは考える野郎だ。奴ら、どんなことやって遊んでたのかな。ちょびっとだけ羨ましい。

 年明け早々なので、立ち合いや周先生の軍刀術は無しにして、みんなで仲良く生民体操をやる。意味も分からず生民の歌詞を唱和しながら、歌に合わせて体が覚え込んでいる動作を無心に行う。みんながどんな精神状態で柵の中に戻って来たかは知らないが、何年もこの場所で行ってきた決まり切った体操をいつもの仲間と無心に行うことで、みんなやや平常心を取り戻したと思う。平常心を取り戻したというべきか、軍による洗脳状態に戻ったというべきか分からないが。
 体操が終わったところで、隊長は再び隊員たちの表情をぐるりと見回して、ひゃっひゃっひゃっと笑った。たぶん、なんか気に入らないんだろう。留守番だった連中が今すぐにでも昼夜兼行で長安まで行けますって顔をしているのに対し、休み明けの奴らは全然ピリッとしてないんだと思う。べつに隊長は不満だとは言わない。ただ笑ってるだけだ。
「さあて、今日は何やって遊ぼうかなあ。大声大会でもやろっか。」
留守番だった連中が面白そうに歓声を上げるのに対し、俺達は、ああそっスか、みたいなぼんやりした顔で聞き流している。留守番の奴らのウキウキした調子についてけねえよ。あいつら、何が楽しいんだよ。馬鹿じゃねえか。俺達は隊長とたった十日かそこら離れていただけなのに、やる気満々の精兵から無感動の烏合の衆に堕落したらしい。まあ、スカッと大声でも出して遊んでいれば、そのうち元通りの馬鹿に戻るんだろう。



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