二十八、音響兵器(2)

「ちょいと練習してみよう。じゃ、せーのでみんな斉に大声出してみ。はい、せーのっ。」
わー、うるせー。
「はい、もういっちょ。せーのっ。」
うるせー!
「はい、まだまだ。せーのっ。」
超~、うるせえんだけど!
「まだまだ出るぞ~。せーのっ。」
あ~、喉痛え!
「もっと大きくー! せーのっ。」
あ~、血管切れそう!
「はい、渾身の力を込めて! せーのっ。」
うわ~、なんか頭痛え!
「はいっ、最後にもう一回! せーのっ。」
…………!
「ああ~、スカッとしたなあ~。はい、お疲れさん。」
ああ~、くたびれたっす……。耳おかしいんですけど。
 休み明けの俺達は燃え尽きたようにゼエヒイいっているが、留守番だった奴らは何事もなかったように楽しげに隊長に絡む。
「スカッとしたな、って、隊長は大声出してなかったじゃないですか。」
「いやあ、大声は出さなかったけどさあ、若い奴らが束になって馬鹿みたいに大声で叫んでるのはいい眺めだったな。」
「ひどいっすね、人にさせといて馬鹿みたいっていう評は。」
ひどいっすねと言いつつ楽しげに笑っている。和気藹々としていやがって。羨ましいぜ。
 死人のような顔色でゼエヒイいっている休み明けの宋仲兼そうちゅうけんに隊長が声をかける。
「仲兼、大丈夫? なんか使い果たしたようなツラしてんじゃん。」
仲兼は肩で息をしながら答えた。
「喉がガラガラになりました。」
「大声出す時に喉で出そうって思わないほうがいいぜ。」
みずから望んで留守番をしていた馬鹿の王仲純が飛び跳ねながら隊長におねだりする。
「模範演技みせて下さいよ。」
「ギャハハハ、演技ってほどのもんでもねえだろ。えっとね、俺大声出るかな? よしよし、じゃちょいとやってみよう。いくよ。」
――う、わ、あ、…………なんだ今の?

 ああ、びっくりした。俺は呆れながら訊ねた。
「隊長、やっぱり人間じゃなかったんですね。どこに拡声装置が付いてるんですか?」
「丞相府に行って設計図見せてもらえば? 最高水準の軍事機密だけど俺の勤務兵だって言えばたぶん閲覧できるよ。」
「えっ! 本当に偃師偶人アンドロイドなんですか?」
「いや、いまのは冗談。」
「べつに隠そうとしなくたっていいですよ。ありのままを打ち明けて下さい。べつに隊長が偃師偶人アンドロイドだって、今までどおりちゃんと尊敬してお仕えしますよ。」
「今まで尊敬してたのかよ?」
「いえ。」
「ギャハハハハ。」
普段の地声もそこそこでかいが、大声出すとすさまじいな。この世の終わりかと思った。
 張屯長が真顔で隊長におねだりする。
「ちょっと、長坂橋ちょうはんきょうで一人で曹操軍を追い返した張車騎をやってみて下さいよ。」
「なんだそれ。そんな演目があるわけ? じゃやってみようか。えっとね、いくよ。」
笑顔で張飛ちょーひっぽい立ち方をしたかと思うと、突然ものに憑かれたかのように恐ろしい顔になり、満腔まんこうの殺気とともにすさまじい衝撃波を発した。
えんひと張ーちょーう、ここにありい! 俺とぉ、決死の一戦をー、交えようって奴あ、いるかー!」



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