二十九、弱卒(1)

 隊長の部屋はいつも扉が開けっぱなしだ。夏はいいが、冬場はこたえる。暦の上では春とはいえ、実家でぬくぬく過ごした後のこの寒さは骨身にこたえる。思わず隊長に
「寒いですねえ。」
と言ってみた。
「寒いなあ。」
「あれっ、寒いんですか? 寒さを感じる機能が備わってないのかと思ってましたよ。」
「寒さが分かんなかったら兵隊さんに風邪ひかせちゃうだろ。」
「へえ、なるほど。韓英五号は管理職仕様で設計されてるんですね。」
「五号? 一号から四号はどこにいるんだ?」
「呉に。」
「へえ、それは知らなかった。」
「だってご兄弟は呉にいるんですよね?」
「なんの話だ?」
「寒かったらちょっと火でも使ってみようかな、なんていう発想はないんですか?」
「状況次第だ。」
「今こそ火を使うべき状況なんじゃないんですか?」
「へっ。ここらの冬なんざ着るもん着て食うもん食ってりゃそうそう死なねえ。」
「死ななきゃそれでいいって発想なんですね。」
「いや、凍傷とか肺炎とかなったら困るけど、今はその兆候は見られないから安心していいよ。」
「寒いです。」
「押し合いっこでもしてあったまる?」
「火を! 火を焚いて下さい!」
有無を言わさず押し合いっこの体勢に持ち込まれて悲鳴を上げていたら、部屋の外から張屯長が興味深げに覗いているのと目が合った。まったくもう。扉が開いていたら、部屋の中が丸見えで恥ずかしいじゃないかよ。それに、部屋から出る際に入って来る人とぶつかりそうになることが時々あるのも、扉を開閉する動作がないせいだ。どうしていっつも扉を閉めないんだ、バッキャロー!
「押し合いっこですか。楽しそうですね。」
「張さんも入る? 人数多いほうがあったまる。」
「じゃ遠慮なく~!」
「扉を閉めて火を焚いて暖をとれって言ってるんですよ! どうして常時開放なんですか! 閉所恐怖症ですか? 常に逃走経路を確保していないと不安でいられないんですか!」
「そっか、だからあの柵の下の獣道けものみちも塞がないまんまで過ごしてるんですね?」



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