二十九、弱卒(2)

「ほら、もっと押せ押せ! 力一杯! めいっぱい!」
「馬鹿かよ!」
「十人くらい集めてやりたいですねえ。」
「ギャハハハ、この勢いで十人でやったら誰か圧死するんじゃねえ?」
「ちょっと! 本気すぎ! 押し合いっこってこんなんじゃないでしょう!」
「いいじゃん。常に全力でハリキッてやろー!」
「あ~、暖まってきましたよ~。楽しいっすねえ~。今度押し合いっこ大会やりましょうよ!」
「ギャハハハ、圧死するよ!」
「二人とも馬鹿すぎ!」
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 ああ疲れた。本気押し合いっこで体力も消耗したが、それ以上に馬鹿の毒気に当てられた。俺が汗だくになってぐったりとしながら恨みがましく隊長を睨んでいるのを尻目に、張屯長が隊長に絡んだ。
「押し合いっこ大会はいいとして、大声大会はいつやってくれるんですか?」
「近日中にやっちまおう。張さん企画してくれる?」
「ハイッ! かしこまりました~。」
くるりと回って飛び跳ねるように出て行く。馬鹿の上官に馬鹿の部下だ。

 半時ほど経って、張屯長が躍りながら戻ってきた。何が楽しいのだろうか。
「午前中に各屯で予選をやって、代表九名を選出して、午後に決勝戦をやりましょう。」
「はい。了解。」
「優勝者へのご褒美は頂けるんですか?」
「それ敢えて無しにしよう。部隊一の大声王として称賛と名誉を得るだけ。こういうなんの得にもならないことに全力で取り組んじゃうってのも馬鹿っぽくて面白いじゃん?」
「なるほど。大声大会という素朴な競技にふさわしい賞ですね。」
なに真面目に語らってるんだ。馬鹿親分に馬鹿子分め。
「審査方法は、叫ぶ内容と声の大きさをそれぞれ十点満点で評価して、総合点で決めます。」
「審査員は?」
「大声大会やるぞ、って声をかけた時に、つまらなさそうな顔をした奴を九名指名すればいいんじゃないですかね。」
「ギャハハハ、なるほど。意地悪だなあ。」
うわ~、俺、つまらなさそうな顔を見せないように気を付けよっと!
「隊長ももちろん参加してくれますよね?」
「え、俺も?」
「嫌だとは言わせません。」
「なんだと? てめえそんなに偉えのか? ま、いいけどよ。」
「あっそ。じゃ隊長も参加ということで。」
「なにをほくそ笑んでるんだ?」
「で、叫ぶ内容ですがね、自分の愛する人に向かって愛を叫ぶんですよ。」
「え……オエ~。それヒク。」
「なんですか。私に企画を一任しましたよね? いまさらケチをつけるなんて、男らしくないですよ。」
「なんか胸がムカムカしてきた。ま、いいけどよ。」
こう言いながら不機嫌そうに座りこんだ。



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