二十九、弱卒(3)

「ちゃんと名指しで言うんですよ。」
「そりゃあちょいとマズかねえか? もし愛してはいけない人を愛してる奴がいたら問題になるぜ。」
「そんな奴いますかね?」
「さあ。」
「あっ、まさか隊長……?」
「いや、それは違う。」
「なあんだ、やっぱりちゃんと好きな人いるんですねえ?」
「すげえムカついてきた。お前ぶちのめしてえ。」
「誰ですか? まさか李隊長?」
「違うよ。ま、もし公表したらマズいような相手だったら無理して言うなって言っとけば?」
「あははは、それもまた、なんですねえ。もし匿名にしたら、あいつ一体どんなマズい相手に懸想してるんだ? って話題を呼びそうですねえ。」
「企画を練り直す気、ねえの?」
「ないです。」
「あっそ。つまり君はそういう奴なんだな。分かったよ。じゃ、それでいいです。用件は済んだ?」
「あと実施日だけ教えて下さい。」
「明日でいいだろ。」
「ハイッ。かしこまりました~。」
隊長に手でシッシッと追い払われながら、張屯長はくるりと回って飛び跳ねるように帰って行った。

 もうだいぶ太ってきた今年最初の月が西の空に沈みかけている。もうじき就寝という時刻だ。怯えた表情の俺が張屯長に注進している。
「マズいですよ。隊長めっちゃ怒ってますよ。」
「そうなの? それでいいです、って言ってたくせになあ。」
「あのあとずっと不機嫌そうにぶつくさ言っていたんで、そんなに気に入らないんだったら一言『却下』って言えば済むことじゃないですか、って言ってやったんですよ。そしたら隊長、苦虫をかみつぶしたような顔しながら、これはなあ、人を呪わば穴二つ、ってやつだ。俺がいっつもみんなに嫌とは言わせねえっつってあれこれ無理強いしてるからよ、俺も売られた喧嘩を買わないわけにはいかねえ。今回俺様にこんな恥をかかせるからには、俺ももう金輪際いっさい容赦はしねえぞ。って言って、めっちゃ怖い顔してどっか行っちゃいました。」
「え~、そんなに怒るほどのことかなあ? 愛の言葉を叫ぶだけだろ? なにも相手を目の前にしてコクれって言ってるわけじゃないんだからさあ。」
「ただ大声出すだけじゃだめなんですかね。どうして愛の言葉にこだわるんですか?」
「面白いじゃないか。」
頬を撫でながらニヤニヤしている。ひょっとして張屯長が自分の奥さんに愛を叫びたいだけなんじゃねえの? と、俺はちょびっと疑った。張屯長は去年の春に俺より五歳も年下の幼な妻をもらってご満悦なんだ。そういえば、陳屯長は正月に太ったのに張屯長は太ってないじゃないかよ。…………。隊長のやつ、休み中に太ったらせっせと励んで体重戻してこいなんて言いやがるから、痩せてても太ってても変な目で見ちゃうじゃないかよ。迷惑な野郎だ。



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