二十九、弱卒(4)

「全然違う話になりますけど、去年月見をした時に、張屯長の奥様も隊長にちょこっと挨拶ぐらいはなさったんですよね。」
「まあ常識的な範囲内でね。」
「その時、隊長ってどんな感じだったんですか? なんか下品な冗談とか言ってました?」
「いや全然。借りてきた猫だよ。行儀よ~く大人し~くしてたぜ。爽やかで誠実な品の良い青年に見えたんじゃないかな。」
「え~、それ真逆まぎゃくじゃないですか。」
「おや? お前いま、隊長のことをネチネチしていいかげんで下品なオッサンだって言った?」
「言ってませんけど、まあそんなもんなんじゃないんですかね。」
「言うねえ。」
「ふうん、借りてきた猫ですか。だから次の日の朝、みんなが起きる前にさっさと逃走したんじゃないですかね。猫を被りつづけることに疲れたんですよ、きっと。」
「女の前では猫かぶりか。イヤな野郎だな。」
「だから未だに独身なんですかね? 時々なんかの機会で女に遭遇する度に猫を被って過ごし、ぐったり疲れちゃって、ああこんなことずっと続けてらんねえと思い知って結婚を断念するという。」
「それ馬鹿すぎるだろ。さすがに結婚相手にまでずっと猫被ったまま通そうとは思ってないんじゃないか?」
「さあ。隊長の馬鹿さ加減は底が知れませんからねえ。」
「なにも猫を被ることなんかないのにな。あのまんまでもいいっていう女も世の中にはいるだろうに。」
「え~、いますかねえ? 同性の目から見ても理解不能なのに、女があんなのについてけるわけないじゃないですか。」
「性格悪いしなあ。掃除の仕方とか細かく口出ししそうだし。」
「しかもイヤミな言い方しますよ。」
「ぜったい嫌われるな。」
「女と続くわけないす。」
おっと、続くわけないって断言しちゃった。隊長は変な奴だがまあまあいい奴だと思う。さっさと結婚して幸せになってもらいたいが、嫌がらずにヤツの面倒を見てくれるような女は存在するのだろうか。俺が女だったらきっと半日で逃げ出す。
「で、どうするんですか? 隊長の恨みを買ってまで、みんなの前で愛の言葉を叫ばせるんですか?」
「そうだよ。そのためにやるんじゃないか。みんな興味あるだろ? もしや李隊長とデキてるんじゃないか、とか。いい年していつまでも独身でぶらぶらしてる罰だよ。ちょっとぐらい恥をかけって。嫌ならさっさと結婚しろって言っといて。」
「えっ、その通りに言っちゃっていいんですか?」
「ダメダメダメ、言わないで! 戦場で隊長に背中を見せて戦うんだからさあ、危険すぎるよ。飛刀の名人だし。」
「じゃあ危ないようなことしなきゃいいじゃないですか。」
「興味があるんだよ。」
またニヤニヤしながら頬を撫でている。ほんっと馬鹿だなぁ。



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