二十九、弱卒(7)

「体調不良のため出場資格なしです。ということで、よろしいですね。」
エエ~! と、みんな不満の声を上げる。隊長も不服気に眉をひそめている。俺は思わず
「そんなに参加したいんですか? どこまで馬鹿なんですか!」
と思った通りに怒鳴りつけたら、隊長は怒ったらしく、とめどなく咳き込み始め、いつまでも咳き込んで顔面蒼白になってがっくりと地べたに膝をついたから、みんなすっかり慌てて、隊長が大声大会に参加しないということにも納得した。まったくもう。人騒がせな野郎だ。

 その後、二日のあいだ隊長は部屋の扉をぴったり閉ざして引きこもっていた。三日目になって扉を開けたら、さっそく張屯長がへらへらしながら入って来て、悪びれもせず
「いやあ、残念でしたよお。隊長の好きな人の名前を聞きそびれて。」
と言った。
「名前を聞いたってどうせ誰だか分からないだろ。」
「我々の知らない人ですか?」
隊長がコンコンと咳をしたので、張屯長はギクリとして沈黙した。隊長はへらへらと笑った。
「それにしても残念だったなあ、具合が悪くなってしまって。いやはや、残念無念。カッカッカ。」
「なんですか、その、してやったり! みたいな顔は。そんなに都合よく喘息がでるものなんですか?」
「おれ喘息出るのは大抵なんか精神的に切羽詰まった時だもん。いやあ、参った参った。」
「なあんか嬉しそうですよねえ。まさかわざとやってるわけじゃないでしょうね?」
「わざとなわけあるかよ。苦しいの嫌だよ。」
「そんなに、具合が悪くなるほど嫌だったんですかあ?」
「俺どこが弱いって、精神面が一番弱いよ。弱いからいじめないで下さい。どうかお願いします。」
「ゼエゼエいわれながら懇願されるとこっちがよっぽど悪人みたいじゃないですか。勘弁して下さいよ。」
「ひゃっひゃっひゃっ。」
三日前にはあんなに怒っていたくせに、今はへらへらと笑っている。やっぱ、張屯長にナメたことを企てられた怒りよりも、愛の言葉を叫ぶなんて恥ずかしすぎるよっていう当惑のほうが大きかったのだろうか。ま、どうでもいいけどさ。
 恥ずかしすぎて喘息になっちゃうのかよ。変な奴。張屯長が帰った後、俺は半時あまりの間ずっと奇異な思いで隊長を観察し続けて、おもむろに溜息をついた。
「疲れた?」
「いえ。」
「なんか疲れた顔してねえ?」
「あきれてたんですよ。」
「ごめんなさい。」
「意外に病弱ですよねえ。」
「みんながいじめなければ俺はいつでも元気だよ。」
「季節性ウツもあるじゃないですか。」
「あれもまあ一年のうちのほんの十日間くらいのもんだし。なんともない年もあるしな。」
「そんなに弱くてよく張車騎の親衛隊が務まりましたね。」
「張車騎も手を焼いてたんじゃねえかな。」



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