三、おもてなし(3)

 隊長室の前に到ると、隊長は貴族が友人を誘う時のような優美な動作で部屋の入口を指し示した。
「どうぞ。取り散らかしておりますが。」
時々やけに丁寧なのはなんなんだろう。部屋だって微塵も散らかってないじゃないか。なんかイラっとくる。
 李仲毅に向かい、隊長は思いがけない言葉をかけた。
「へっへっへ。よくやるぜ。あきれたもんだ。いや、褒めてるんだぜ。」
これだけ言うと、あとは笑いながらポンポンと仲毅をたたく。そんな褒め方があるかよ。語彙ねえのか。
「でこれ、些少ですがご笑納下さい。外出は二人一組、一泊二日ね。いつ誰と出かけるか後日計画を聞かせて下さい。」
「はい。ありがとうございます。」
「礼儀正しいけど堂々としてんのな。何年目?」
「六年目です。」
「元年組? ひゃっひゃっひゃっ。若っけえ奴らを押しのけて、やるなあオッサン。」
俺は思わず口を挟んだ。
「自分より十歳も若い男を捕まえて、よくオッサンなんて言いますね。」
「仲毅がオッサンなら俺あジジイか。ひゃっひゃっひゃっ、歩兵の寿命は短けえよ。」
「歩兵じゃないじゃないですか。指揮官ですよね。」
「ああそうだっけ。」
仲毅に向き直り尋ねる。
「んでご褒美なんだけど、なんか、手料理でおもてなしっつってた奴いたじゃん? それ興味あんの?」
「はい、もちろん。」
「それって食えりゃいいってこと?」
「なんか旨いもん食わせて下さい。」
「なんでもいいから手料理食わせろって話だったら、今そこにあるんだけど、よかったら食ってく?」
「はい、喜んで。」
仲毅はニマッと笑った。
「実はさっきからおいしそうな匂いが気になってました。」
隊長は何故かはにかんだように笑う。
「じゃどうぞ。そちらにおかけ下さい。」
三十男のはにかみ笑いはキショい。
「うわ、なんか、すげえちゃんとして下さってるんですね。」
「おもてなしって言葉に縛られた。しかし休憩中に叩き起こされて呼びつけられてさあ食えっていうんじゃ、おもてなしとは呼べないな。気に入らなかったら仕切り直すぜ。」



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